【第11回】物理レイアウトとラック設計編:現場で困らないための“見積に出る前の設計力”

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プリセールスが構成を提案する際、多くの技術者がスペックやソフトウェア構成には強くても、「物理実装はどうするのか?」という話になると不安そうな顔をする――これは現場でよくある光景です。

しかし、サーバーやストレージは“設置されて初めて機能する”もの。提案がそのまま現場に設置されることを考えると、物理レイアウトとラック設計の視点は極めて実務的です。

本記事では、プリセールスが押さえるべき物理構成設計の基本と、ラック/電源/冷却設計の要点を解説します。

なぜ物理レイアウト設計が重要なのか?

  • 見積はOKでも「ラックに入らなかった」「電源が足りなかった」では意味がない
  • ファシリティ部門や施工業者との連携が必要なことも
  • ハードと同じくらい、実装性と保守性も提案品質の一部

ラック設計の基本要素

ラックの主なスペック

項目説明
U数1U = 1.75インチ(約4.45cm)。通常42U〜47U
奥行き1000mm前後が主流。サーバー奥行きに要注意
基本は600mmまたは800mm
許容重量ラック全体で800kg〜1500kgなど。ストレージ複数台に注意
扉仕様前後メッシュ扉 or 鍵付き。冷却・セキュリティ両面で確認

ラック選定時のポイント

  • 機器の合計U数+20%程度の余裕を持つ
  • 奥行きは機器仕様+ケーブル引き回し分を考慮
  • 上下分散配置+保守性を意識する(電源・LAN抜き差しが容易な高さに)

サーバー・機器配置の考え方

① 機器の寸法とU数の把握

製品通常U数備考
1ソケットサーバー1UDL360など
2ソケットサーバー1U or 2UDL380(2U)など
ストレージ2U〜4U重量・HDD本数に注意
UPS2U〜4Uラック下部に配置推奨
ネットワーク機器1U〜2U上部設置が主流

配置の原則(実務的ポイント)

  • 重量物は下段、発熱する機器は上段を避ける
  • ネットワーク機器は上段、UPSは最下段
  • ラックマウントレールと実U数のズレに注意
  • 前面から80cm・背面から120cm程度の作業スペース確保

電源設計:PDU・電源容量・冗長性

電源容量の計算式(簡易版)

機器の消費電力(W) × 台数 ÷ 電源電圧(100V or 200V) ≒ 必要電流(A)

PDU設計のポイント

項目内容
入力形状C13/C14 or C19/C20が主流(機器と合わせる)
相数単相100V/200V or 三相200V
冗長構成デュアルPDU+サーバー側の冗長電源対応が理想
配線整理配線トレー or ケーブルマネジメントバー使用を前提にする

冷却設計:ラック内温度とエアフロー管理

  • ラック前面→背面にエアフローを確保(密閉型は要注意)
  • 吸排気が混ざらないように、ホットアイル/コールドアイル配置を意識
  • 床下空調 or ラック冷却ユニットの有無も確認
  • 機器側のTDP(熱設計電力)を確認して、発熱の偏りに注意

プリセールスとして意識すべき提案視点

提案書に入れるべき項目

  • 使用U数と空きU数(余裕)
  • 推定消費電力とPDU要件
  • ラック重量(+床荷重)への配慮
  • 実装順とメンテナンス性(前後扉・ケーブル抜き差し)

よくあるトラブルと予防策

ミス発生例防止策
U数不足ネットワーク機器の分を忘れた使用U数+20%余裕を確保
奥行き不足1000mmラックに1200mmサーバーを提案機器奥行きをカタログ確認
重量超過ストレージ大量搭載でラックがしなる床荷重・重量制限の確認
冷却不足密閉ラック or 背面配線干渉エアフローと吸気口を確認

まとめ:ラック設計は“設置できる構成”をつくるための基本

ラック設計は、「構成の最後のひと押し」ではなく、提案の段階から見据えるべき“構成の実現性”そのものです。

サーバーが届いたのに、ラックに収まらない。
配線が足りなくて、機器が起動できない。
そうしたトラブルを防ぐのは、プリセールスの一言「これ、入りますか?」です。