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ストレージというと「データを保存する場所」としての役割が強調されがちですが、ビジネスにおいて重要なのは“保存されたデータを必要なときに取り出せること”です。
これは単にRAIDを組めばいい、容量を確保すればいいという話ではなく、「バックアップ」と「アーカイブ」という2つの視点から、保存の“その先”を設計することが求められます。
バックアップ vs アーカイブ:定義の違い
項目 | バックアップ | アーカイブ |
---|---|---|
目的 | 障害・誤操作からの復元 | 長期保管・法令遵守・記録保持 |
保管対象 | 現在使用中の業務データ全般 | 古くなったが残すべきデータ |
更新頻度 | 毎日〜週次 | ほぼなし |
保管期間 | 数週間〜数か月 | 数年〜無期限 |
アクセス頻度 | 高(障害時など) | 非常に低 |
混同に注意!
「全部RAIDに入ってるから安心」→ RAIDは可用性であって、バックアップの代わりにはならない。
「古いデータを外付けHDDに残しておけばいい」→ それはバックアップではなく、不完全なアーカイブ。
バックアップ設計の基本視点
- RPO / RTO をまず定義する
-
用語 定義 RPO(Recovery Point Objective) データをどこまで戻せればよいか(許容損失) RTO(Recovery Time Objective) 復旧にかかる最大時間 -
例:「RPO=1時間/RTO=4時間」であれば、1時間前までの状態に、4時間以内に戻せればOK。
- 3-2-1ルールに基づく設計
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3つのコピーを
2種類の媒体に保存し
1つはオフサイトへ - バックアップ対象と方式
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対象 方式例 仮想マシン vSphere Data Protection、Veeam等 ファイル エージェント型、NASスナップショット DB データベースネイティブのDUMP+ログ - 保存先としてのストレージ要件
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項目 推奨内容 書き込み速度 フルバックアップに耐える帯域 保管容量 世代管理を考慮して多めに確保 媒体冗長性 RAID 6またはRAID Z3推奨 スナップショット 高速リストア用途に有効 レプリケーション DRサイト/オフサイト連携に有効
アーカイブ設計の基本視点
- データ価値 vs コストのバランス
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「保存しておきたいがアクセス頻度は極低」→ 低コスト・長寿命が優先
ランダムI/Oや高速性は不要 → SATA/NL-SAS HDDやオブジェクトストレージが有力
- アーカイブ方式の一例
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方法 特徴 ファイル単位の手動アーカイブ 保守的だが運用負荷が大きい ストレージベースの階層管理(HSM) よく使うデータは高速Tierへ、古いデータは低速Tierへ自動移動 オブジェクトストレージへの移行 AWS S3/Wasabi/Ceph S3等。メタデータ検索も可能 - WORM・法令対応も必要に応じて検討
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- WORM(Write Once Read Many):書き込み後の改変不可
- 金融・医療・建設・研究などは数年〜10年以上の長期保持義務あり
製品選定と構成例
- バックアップ用途
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構成例 製品候補例 仮想化基盤のバックアップ先 Synology RS2423RP、NetApp FAS、Dell ME5 世代管理+レプリケーション構成 HPE Alletra 5000、Veeam + Exos JBOD クラウド転送型 NetApp ONTAP SnapMirror + S3、Wasabi連携等 - アーカイブ用途
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構成例 製品候補例 大容量ファイル保存(安価) Seagate Exos Xシリーズ(NL-SAS) 法令対応の長期保存 NetApp SnapLock、FUJITSU Eternus HSM等 オブジェクトストレージ構成 MinIO/Ceph/Dell ECS/Wasabi連携等
よくある誤解と対策
誤解 | 対策例 |
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RAIDがあればバックアップはいらない | RAIDは可用性、バックアップは復元のため |
世代管理は1世代あれば十分 | ランサムウェア対策には週単位・月単位も必要 |
クラウドに投げておけばOK | ダウンロードコストや保持期間、ガバナンスに注意 |
データを消さなければアーカイブになる | 「検索できる」「保持ルールに従っている」が必要 |
まとめ:ストレージ設計の“最後の1マイル”がバックアップとアーカイブ
バックアップとアーカイブは、「とりあえず置いておく」「万が一のため」ではなく、業務継続性と情報資産管理の設計要素です。
これまでのストレージ構成・プロトコル・RAID・製品選定に加えて、「守る・残す・戻す」仕組みまで考えてはじめて、インフラとして完成された設計になります。