第10回:ネットワークトラブルシューティングの基本

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ネットワークは、「つながること」が当たり前になっている分、ひとたび通信ができなくなると全体に影響が及びます。

そのため、トラブル発生時に「どこが原因かを素早く切り分ける」スキルがインフラエンジニア・プリセールスにとって必須です。

本記事では、トラブル時に慌てないための基本的な切り分け手順、便利なコマンド、再現性のある情報収集のコツを体系的に解説します。

トラブルの“型”を把握する

まずは、ネットワークトラブルを大別して「どこで発生しているか」を整理しましょう。

層(レイヤ)主な症状例
L1(物理)ケーブル断線、リンクが点灯しない
L2(データリンク)VLAN設定ミス、MACアドレス学習不足
L3(ネットワーク)IPアドレス未設定、ルーティング不備
L4(トランスポート)ポートが閉じている、FWで遮断
L7(アプリケーション)DNS解決失敗、証明書エラー、サービス不具合

OSI参照モデルを意識して順に下から確認すると、迷わず対応できます。

基本の切り分けステップ(再現性のある手順)

STEP
物理・接続確認(L1)
  • ケーブルの抜き差し、リンクランプ確認
  • ポート設定(Auto/Full Duplex/Speed)にミスマッチはないか
STEP
IPレベル確認(L2/L3)
  • ipconfig / ifconfig:IPアドレス取得済みか
  • arp -a:MACアドレス解決できているか
  • VLAN設定、ルータ/ゲートウェイ設定確認
STEP
通信確認(L3/L4)
  • ping:相手IPに届くか
  • traceroute / tracert:どこで止まっているか
  • telnet or nc:特定ポートに接続できるか
STEP
DNS/アプリ確認(L7)
  • nslookup:名前解決できているか
  • ブラウザでアクセスして証明書やリダイレクトをチェック

ping/tracerouteの使いどころ

コマンド用途
ping [IP]到達性の確認
ping [FQDN]名前解決+到達性
traceroute [IP](Linux)途中経路の把握
tracert [IP](Windows)上記と同様(Windows用)

「pingは通るがtelnetは通らない」→ L3はOK、L4で遮断されていると判断

便利なコマンド・ツール集(Linux/Windows共通)

コマンド目的
ip a / ipconfigIP確認
arp -aMACアドレス確認
netstat -anポートの状態(LISTEN、ESTABLISHEDなど)
telnet [IP] [port]ポート疎通確認
nslookup [ドメイン]DNS確認
dig(Linux)DNS詳細確認
tcpdump / Wiresharkパケットキャプチャ

“あるあるトラブル”の典型例と対処

症状原因解決策
IPは通るのに名前で接続できないDNS未設定 or 解決失敗DNSサーバ設定 or hostsファイル確認
pingは通るのにアプリが動かないFWでポートが閉じているFWルール確認、telnetで確認
VLAN間通信できないL3スイッチにルーティング未設定SVIやルート設定を確認
Web表示が異常に遅いMTUミスマッチ、ループ発生MTU調整、STP確認
外部には出られるが社内サーバにつながらないACLで通信遮断ポリシー確認、ログ解析

プリセールス視点:トラブル時の“聞き方”で変わる信頼

ヒアリングのNG例

「とりあえず繋がらないらしいです」

良いヒアリングの例
  • 「pingは通りますか?」
  • 「何時頃から、どの端末で、どの宛先に対して、どんな操作をすると起きますか?」
  • 「他の端末でも同様ですか?」
  • 「VPN環境ですか?有線ですか?Wi-Fiですか?」

トラブル対応=再現条件の確定 → 切り分け → 対応の順

トラブル記録のテンプレート化(例)

項目記入例
発生日時2025/06/04 15:20頃
利用端末PC-002(Windows 11)
通信先intra.example.co.jp
症状Webポータルが開かない(404)
ping通る(192.168.10.1)
nslookupIPは引けている
telnet 443通らない
影響範囲同一VLAN内全端末で発生

チケット制やSLA対応の現場では標準フォーマットでの記録が重宝されます。

まとめ

ネットワークトラブルは、技術力よりも“落ち着いた切り分け”が最大の武器になります。

  • OSIモデルを使った階層的切り分け
  • コマンドやツールを活用した状況把握
  • ユーザーからの“再現性ある情報収集”
  • プリセールスとしての初動対応力

設計・構築だけでなく、「困ったときにも頼れる存在」であることが、信頼されるエンジニア・プリセールスへの第一歩です。