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バックアップ設計において、「何を、どこまで、どのようにバックアップするか?」という対象の特定(スコーピング)は、復元可能性や運用コストを左右する最重要ポイントです。
データだけを守ってもシステムは復旧できません。逆に、全てをバックアップするとコストが跳ね上がります。
このバランスを見極めるためには、「対象の明確化」と「分類」が欠かせません。
本記事では、企業インフラにおける代表的なバックアップ対象と、それぞれに適した保護手法を体系的に解説します。
バックアップ対象の全体像
バックアップ対象は、大きく以下の5つに分類されます。
カテゴリ | 具体例 | 保護目的 |
---|---|---|
① データファイル | 文書、設計書、帳票、CSV、CADファイルなど | 日常業務データの保全 |
② システム構成情報 | OS設定、レジストリ、ネットワーク設定、ドライバ類 | サーバ再構築の簡易化 |
③ アプリケーション | ERP、会計ソフト、CADツール、業務アプリ | 復旧時の環境再現 |
④ データベース | SQL Server、PostgreSQL、Oracleなど | トランザクション整合性の保持 |
⑤ 仮想マシン全体 | VMware/Hyper-Vの仮想ディスク+スナップショット | 包括的な復元性の確保 |
守るべきものの優先順位を決める「可用性階層」
企業規模や業務特性により、バックアップ対象の優先順位は異なります。以下は典型的な階層モデルです。
■ 可用性階層モデル(バックアップ優先度)
優先度 | バックアップ対象 | 備考(復旧優先度) |
---|---|---|
① | 重要な業務DB・ファイル | 優先度 最重要 |
② | アプリ設定・構成ファイル | 業務システムの再現に必須 |
③ | OS・中間層ミドルウェア | 再構築時の時間短縮 |
④ | 仮想基盤そのもの(ESXi等) | 優先度 中程度 |
⑤ | 共有フォルダ・一時ファイルなど | 優先度 低 |
「優先度が高い順に、復旧時間(RTO)を短くする構成にする」のが原則です。
バックアップ対象の詳細と手法
業務データ(ファイルサーバやNAS)
- Word/Excel、PDF、CADなどのファイル資産
- SMBプロトコル経由でアクセスする共有フォルダ群
推奨手法
- フル+増分 or 差分
- アクセス権込みの取得(NTFS ACLなども保持)
- NAS向け専用アプライアンス(例:Synology + Active Backup)
システム構成(OS・レジストリ・設定)
- OSのバージョン/ネットワーク設定/レジストリ
- Active Directoryの構成情報(DC)
推奨手法
- イメージバックアップ(OS丸ごと)
- Windows Server Backup や Veeam Agent 等の利用
- ドメインコントローラは「System State」バックアップ必須
アプリケーション
- ERP・CRM・販売管理・設計系ツールなど
- アクティベーション情報やライセンスキー
推奨手法
- アプリ単位で復旧するより、VM単位のリストアが現実的
- 設定ファイル(.ini/.conf)を個別バックアップするケースもあり
- パッチ適用履歴の記録もセットで残すとベター
データベース(SQL / Oracle / PostgreSQL 等)
- 業務システムの中核となる構造化データ
- トランザクション整合性が重要
推奨手法
- 論理バックアップ(ダンプ)+物理バックアップの併用
- SQL Serverなら「VSS(Volume Shadow Copy Service)」と連携
- 一部製品では専用プラグイン(VeeamのSQL拡張など)も用意
仮想マシン単位
- OS+アプリ+データを丸ごと仮想マシンとして保存
- VMware(VMDK)やHyper-V(VHDX)
推奨手法
- 仮想基盤対応ソフト(Veeam、Acronis、Nakivoなど)
- CBT(Changed Block Tracking)で増分バックアップを効率化
- VM単位の即時リストア(インスタントリカバリ)にも対応可
バックアップ除外対象も明確に
バックアップ対象を定義する一方で、「あえて取らないもの」も決めることが重要です。
- キャッシュ、テンポラリファイル
- 一時ログ、インストーラの残骸
- ゴミ箱や仮想プリンタ出力ファイル(PDF spoolなど)
→ 保存対象を絞ることで、容量やネットワーク負荷が最適化されます。
スコープ設計の3つの視点
- 何を守るか(業務単位)
→ 重要データ・構成・復元のしやすさを基準に選定 - どこまで戻すか(復旧粒度)
→ フォルダ単位?VM丸ごと?個別ファイルのみ? - 誰が戻すか(復旧担当者)
→ 情報システム部?現場?リモート運用委託?
これらを可視化することで、実用性の高いバックアップスコープが定義できます。
まとめ:「すべて」ではなく「最適な対象を守る」ことが設計力
バックアップは「全部取れば安心」ではありません。
運用負荷、容量、復旧時間をトータルで考え、必要なものを、必要なだけ、確実に戻せる状態にしておくのが理想です。