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“理想”ではなく“現実”に即したラック設計とは?
ラック製品のカタログには、理想的な構成や洗練されたデータセンターの写真が並びますが、実際の現場はもっと生々しいものです。
「予算が限られている」「古い機器と混在している」「設置スペースが狭い」など、オンプレミス環境では“制約条件の中での工夫”が重要になります。
本記事では、さまざまな業種・規模でのラック導入実例をもとに、構成の工夫点や注意すべき落とし穴を解説します。
ケース①:中小企業オフィス(常設1ラック構成)
構成概要
- ラック:サンワサプライ CP-SVNシリーズ(24U、奥行700mm)
- 機器構成:
└ 1Uサーバー×2台(業務管理用、ファイルサーバー)
└ UPS(据置型、2U)
└ NAS(4ベイ、据置)
└ ギガスイッチ(PoE対応、19インチマウント) - PDU:横型ベーシックタイプ(1U)
- オプション:固定棚板×2枚、キャスター付き、前面鍵付き
ポイントと工夫
- スペースとコストを重視し省スペース型ラックを選定
- NASやUPSは棚板に設置し、重量負荷を分散
- 無人環境のため前面鍵付き&棚板に耐震マット
- ケーブルは上部からの引き込み&配線ガイドバーを併用
→ 小規模でもラック化することで、熱・ホコリ・配線の管理が格段に向上
ケース②:製造業(工場内ネットワークラック)
構成概要
- ラック:APC NetShelter SVシリーズ(42U、奥行1000mm)
- 機器構成:
└ L2スイッチ×3台(工場エリアごとのネットワーク分離)
└ 小型UPS(1U)
└ PLC監視用ゲートウェイ装置(DINレールマウント) - オプション:防塵フィルター、ブラシパネル、横型メータ付きPDU
ポイントと工夫
- 工場環境のため防塵性能を重視し密閉度の高いラックを選定
- ケーブルの引き込み部にはブラシパネルでホコリ対策
- 小型機器の一部はDINレールマウントアダプタで棚板に固定
- 通気設計とメータ付きPDUで熱と電力の可視化を両立
→ 工場内でもラック管理にすることで、ネットワーク機器の可用性と整備性が向上
ケース③:教育機関(サーバールーム分散ラック構成)
構成概要
- ラック:HPE G2 Advancedシリーズ×2本(42U)
- 機器構成:
└ 仮想基盤サーバー×4台(1U)
└ ストレージ(MSAシリーズ、2U)
└ ドメインコントローラー(1U)
└ UPS(ラックマウント型、2U)
└ ネットワークスイッチ(PoE対応、1U) - オプション:ブランキングパネル、スライド棚板、スライドKVMトレイ、Tool-lessレールキット
ポイントと工夫
- 機器増設を前提にラック2本構成で分散実装
- 一部機器にTool-lessマウントでメンテ時間を短縮
- 教職員が触れることもあるため、鍵管理とラベリングを徹底
- UPSはPDU二重化構成+A/B電源分岐
→ 教育機関においても、ラック設計次第で限られた予算内でも信頼性の高い基盤構成が可能
ケース④:SIerの検証ラボ(移動型・変更前提のラック構成)
構成概要
- ラック:サンワサプライ 19インチオープンラック(36U)
- 機器構成:
└ 1U~2Uの各社サーバーを都度入れ替え
└ ネットワークスイッチ、UPS(いずれも検証用) - オプション:キャスター、固定棚板、結束リング、電源タップ
ポイントと工夫
- 移動を前提にオープンラック+キャスター構成
- ラックの固定棚に滑り止めシートを追加
- 電源タップはマグネット式で背面に配置
- 配線は色分けケーブル+番号ラベルで整理
→ 固定設置より柔軟性を優先。構成変更に強い運用スタイルを実現
共通する成功の秘訣:設計時の想定と余白
すべての事例に共通していたのは、「最初の時点で“余白”と“変化”を見込んで設計していたこと」です。
ラックは一度組んでしまうと変更が手間になるため、以下のような点は最初から見越しておくべきです。
事前に想定すべきポイント | 理由 |
---|---|
空きU数(20~30%) | 将来的な機器増設に対応 |
電源容量の余裕 | 新規UPS/PoE機器追加などに備える |
メンテナンス空間の確保 | 背面アクセス、ケーブル操作が容易に |
鍵・固定・ネーミングルールの設定 | 情報共有・トラブル対応を標準化 |
まとめ:ラック導入は“現場ごとの正解”を考える
ラックの導入において重要なのは、カタログスペックを追うことではなく、現場の環境・人員・予算・将来性を見据えて最適な構成を考えることです。
- 小さなオフィスでもラックがあれば運用が整う
- 工場では防塵と耐久性を両立する工夫が必要
- 教育機関ではセキュリティと拡張性のバランスが重要
- 検証ラボでは柔軟性と可動性が価値となる
理想ではなく“実情に即したラック選定”こそが、インフラ全体の強さにつながります。