はじめに:Zerto提案の“設計力”が成約率を決める
ZertoはHPEのデータ保護ポートフォリオの中でも「災害対策(DR)」に特化したソリューションです。
バックアップとは異なり、システム全体の構成をどのように設計するかによって、ライセンス消費数や提案コスト、RPO/RTOの達成度が大きく変わります。
本記事では、HPEパートナー企業のプリセールス担当者が押さえるべきZertoの構成設計とライセンス設計の基本原則を整理します。
1. Zerto構成の3つの要素:ZVM・VRA・Journal
Zerto環境は、主に以下の3つのコンポーネントで構成されます。
| コンポーネント | 役割 | 設置場所 |
|---|---|---|
| ZVM(Zerto Virtual Manager) | 仮想環境のレプリケーション管理。vCenterやSCVMMと連携。 | 各サイトに1台ずつ配置 |
| VRA(Virtual Replication Appliance) | ESXiやHyper-Vホスト上でI/Oキャプチャとレプリケーション転送を実施。 | 各ホストに1台配置 |
| Journal(ジャーナル) | 変更データを短期間保持し、任意の時点への復元を可能にするログ領域。 | DR側ストレージ上に構築 |
この3要素が連携して、「継続的データ保護(CDP)」を実現します。
プリセールスとしては、Zerto構成を設計する際に各コンポーネントがどこに存在するかを明確にすることが重要です。
2. 保護単位:ライセンスは「VM単位」でカウントされる
Zertoライセンスの基本は「保護対象VM単位」です。
ZVMやVRAそのものにはライセンスは不要で、保護対象のVM数に応じてライセンスを消費します。
例:片方向レプリケーション構成
本番サイト(10VM) → DRサイト(Zertoレプリケーション)
この場合、ライセンスは「10VM分」を本番側に割り当てます。
DRサイト側は受信先であり、ライセンスは不要です。
3. 双方向レプリケーション構成時のライセンス計算
Zertoの特徴のひとつに、双方向(bi-directional)構成が挙げられます。
これは「本番Aサイト」と「本番Bサイト」がお互いにDRサイトの役割を持つ構成です。
例:双方向構成
サイトA(10VM) ⇄ サイトB(10VM)
この場合、
- サイトA→B の保護VM:10VM
- サイトB→A の保護VM:10VM
合計 20VM分のライセンスが必要となります。
「送信方向にのみライセンスが必要」という原則を覚えておくと混乱しません。
双方向に保護すれば、ライセンスも倍になるというわけです。
4. ZVMの配置設計と冗長化
ZVMは各サイトに1台ずつ配置されるのが基本です。
たとえば片方向レプリケーションの場合:
- 保護元サイト(プライマリ):ZVM(本番サイト管理)
- 保護先サイト(DR):ZVM(レプリケーション受信側管理)
ZVM同士はTCP 9081ポートなどを使用して通信します。
通信断が発生してもジャーナル領域内でデータをバッファできるため、短時間の切断には強い設計です。
さらに、大規模環境(数百VM以上)では複数ZVMによる分散構成も可能です。
プリセールスとしては、保護対象VM数が50〜100を超える場合には、ZVM負荷分散を提案するのが望ましいでしょう。
5. Journal領域とストレージ容量設計
ZertoのJournalは、変更データを短期間保持するためのログ領域です。
デフォルトでは 7日間 の保持期間が設定されますが、環境に応じて 1〜30日 の範囲で設定可能です。
Journal領域は容量設計が重要です。
1VMあたりの変更データ量が多いと、Journal領域が肥大化しストレージを圧迫します。
HPEストレージと組み合わせる場合は、以下のような推奨構成が一般的です。
| ストレージ製品 | 特徴 | 推奨用途 |
|---|---|---|
| HPE MSA 2060 / 2062 | コストパフォーマンス重視 | 中小規模DRサイト |
| HPE Alletra 5000/6000シリーズ | NVMe性能を活かした低RPO構成 | 大規模・高性能DR構成 |
| HPE Primera / 3PAR | 既存ストレージ統合に適す | 既設環境の活用型DR |
Zertoはストレージ依存度が比較的低いソフトウェアですが、Journalの書き込み性能が復旧速度に直結するため、HPE Alletraのような高速ストレージを選定すると顧客満足度が高くなります。
6. ライセンス消費と構成例まとめ
| 構成タイプ | 保護方向 | ライセンス消費例 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 片方向DR構成 | A → B | 保護元VM数分(例:10VM) | 最も一般的 |
| 双方向DR構成 | A ⇄ B | 両方向VM合計分(例:20VM) | 高可用性向け |
| クラウドDR構成 | A → Azure | 保護元VM数分 | DRサイトにAzureを使用 |
| テスト環境保護 | Lab → Prod | 必要に応じてカウント | PoCでよく使用 |
このように、Zertoライセンスは保護方向ベースで算出するため、提案時には「どちらのサイトが送信側か」を正確にヒアリングすることが欠かせません。
7. HPEストレージ連携の提案ポイント
Zertoはストレージベースのレプリケーションとは異なり、ハイパーバイザー層(VMレベル)でのレプリケーションを行います。
そのため、HPEストレージとの関係性は「補完的」なものになります。
提案時には、次のようなメッセージが効果的です。
「Alletraの高速I/O性能とZertoの連続保護機能を組み合わせることで、
RPOを数秒単位まで短縮し、従来のバックアップ構成では実現できない業務継続性を実現できます。」
また、HPE GreenLake for Disaster Recoveryを利用する場合、Zertoの管理はHPEクラウドポータル経由で統合でき、オンプレとクラウドのDR統合管理という提案が可能になります。
8. まとめ:Zertoは「構成」と「ライセンス」を一体で考える
Zertoの提案成功は、構成設計とライセンス設計を分離せず、
一体で最適化することにあります。
ポイントを整理すると以下の通りです。
- ZVM・VRA・Journalの関係を明確に理解する
- ライセンスは保護方向(送信側)VM数に基づいてカウント
- 双方向構成ではライセンスも倍になる
- Journal領域の容量設計にはHPEストレージ選定が重要
- GreenLake連携でクラウドDR提案も視野に入れる
次回予告
次回の第5回:Zerto管理コンソール(ZVM)と運用ポイントでは、実際のZerto UI構成、RPO監視、フェイルオーバーテスト運用などを中心に、プリセールス視点でのデモ・トークに使える説明ポイントをまとめます。
