第1回:HPE Zertoとは何か ― バックアップではなく“継続的データ保護”という考え方

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はじめに:BCP・DR対策の新常識としてのZerto

近年、企業システムの仮想化・クラウド化が進む中で、災害対策(Disaster Recovery:DR)や事業継続計画(Business Continuity Planning:BCP)は、単なるオプションではなく「前提条件」として求められるようになりました。

サーバー障害やランサムウェア被害、データセンター災害などによる業務停止リスクに対し、数時間〜数分単位の復旧ではもはや不十分という声も少なくありません。

こうした中で注目されているのが、HPEが提供するZertoです。

データ保護 | HPE Zerto Software | あらゆるデータを保護

Zertoは単なるバックアップソフトではなく、リアルタイムでデータを保護し、ほぼゼロに近いRPO(復旧時点目標)を実現するソリューションです。

2021年にHPEがZerto社を買収して以降、現在は「HPE Zerto Data Protection」としてHPE製品体系に統合され、GreenLakeポートフォリオにも組み込まれています。

バックアップとレプリケーションの決定的な違い

一般的なバックアップソリューション(例:Veeam、Arcserveなど)は、「ある時点のスナップショット」を取得してデータを保護します。

例えば毎日夜間にバックアップを実行する場合、RPOは最大24時間になります。
つまり、障害発生の直前に行っていた取引データや更新内容は失われる可能性があります。

一方、ZertoはContinuous Data Protection(CDP:継続的データ保護)という考え方を採用しています。
仮想マシン上で発生したI/Oをリアルタイムに監視・複製
し、数秒単位で別サイトや別ストレージへレプリケーションを行います。
これにより、障害発生時にも「数秒前の状態」まで巻き戻すことが可能です。

比較項目一般的なバックアップZerto(CDP方式)
保護方式スナップショットベース継続的レプリケーション
RPO(復旧時点)数時間〜1日数秒〜数分
RTO(復旧時間)数時間数分以内
主な用途データ保護・長期保管DR・即時復旧・ランサムウェア対策
運用負荷バックアップウィンドウが必要常時保護・無停止運用が可能

プリセールスの観点では、「Zertoはバックアップの置き換えではなく、“業務継続性”を重視した災害対策基盤である」と整理しておくと、お客様への説明がスムーズです。

HPEによるZerto買収と製品体系の再構築

Zerto社はもともとイスラエル発のスタートアップで、VMware環境向けのDRソリューションとして高い評価を得ていました。
2021年、HPE(Hewlett Packard Enterprise)がZertoを買収し、HPEのData Servicesポートフォリオに組み込みました。

この買収により、Zertoは単なるソフトウェア製品ではなく、HPE GreenLakeを中心とした**「データ保護as-a-Service」の中核として再定義されています。
つまり、Zertoは
オンプレ/クラウド/ハイブリッドすべてを横断してデータ保護を提供するHPEの戦略的要素**となったのです。

現在、HPEでは以下のように製品体系が整理されています。

  • HPE Zerto Data Protection:オンプレ環境でのCDPライセンス提供(従来のZerto Virtual Replicationの後継)
  • HPE GreenLake for Disaster Recovery:Zerto技術をベースとしたDRaaS(Disaster Recovery as a Service)モデル
  • HPE Alletra / Primera / MSAシリーズとの連携:ストレージベースのレプリケーションとの統合設計が可能

プリセールス担当者にとって重要なのは、HPE版Zertoが他のHPEストレージ/Compute製品と組み合わせて提案できる点です。
特に、HPE Alletra StorageとZertoの組み合わせは、オンプレDR構成からクラウドDRまで統一的に設計できる強みがあります。

仕組みの概要:ZVM・VRA・Journalによる連続保護

Zertoの仕組みは大きく3つのコンポーネントで構成されています。

  1. Zerto Virtual Manager(ZVM)
     vCenterやSCVMMと連携し、仮想マシンの保護ポリシーを管理する中核コンポーネント。
  2. Virtual Replication Appliance(VRA)
     各ホストに配置され、仮想マシンのI/Oをキャプチャし、リアルタイムでレプリケーションを実施。
  3. Journal(ジャーナル)
     直近数秒〜数日分の変更データを保持し、任意の時点にロールバック可能。
     ランサムウェア被害時なども、「感染前の状態」に戻すことができる。

これらが連携することで、ZertoはRPO数秒・RTO数分という極めて短い復旧時間を実現します。
また、フェイルオーバーテスト機能を使えば、業務停止せずにDRテストを実施できるのも特徴です。

仮想化・クラウド環境への対応

Zertoは、以下の主要プラットフォームに対応しています。

  • VMware vSphere / vCenter
  • Microsoft Hyper-V / SCVMM
  • Public Cloud(Azure, AWS)
  • HPE GreenLake Cloud Platform

特に、オンプレのvSphere環境からAzureやHPE GreenLakeクラウドへのレプリケーション構成は、
「クラウドDR」提案の具体的なシナリオとして採用されやすい構成です。

HPE Zertoは、既存のvCenterやHPEサーバー環境に追加導入するだけで始められるため、
新たなハードウェア投資を抑えながらBCP強化を図ることができます。

今後の展開:第2回へ

本記事では、Zertoがどのような思想で設計されたソリューションなのか、
そしてHPEにおける位置づけを整理しました。

次回は、「第2回:HPE版Zertoライセンス体系の全体像」として、VM単位・ソケット単位・サブスクリプションなど、実際の提案時に必要となるライセンスの考え方を詳しく解説していきます。