前回:【第0回】プリセールスの視点で見る「サーバー構成要素」入門
サーバー構成において、最初に検討すべき部品は何か?と問われれば、私は迷わず「CPU」と答えます。
CPUはサーバー全体の“心臓部”であり、性能、拡張性、消費電力、発熱、ひいては筐体選定や電源設計にも影響を与える中核的なパーツです。
実際に、HPEやDellの構成見積ツールでも、CPUの選定からスタートすることが一般的です。
なぜなら、CPUによって使用可能なメモリの容量・チャネル数、PCIeスロットの世代やレーン数、更には消費電力の観点からサポートされるGPUの種類まで変わるからです。
しかし現場では、「コア数が多ければ性能が高い」「新しい世代のCPUなら安心」といった表面的な理解だけでCPUを選んでしまうケースも少なくありません。
本記事では、そうした誤解を避け、用途に合わせた実務的なCPU選定の基準をお伝えします。
サーバー向けCPUの基礎知識
初めに、主なCPUブランドと製品ラインを紹介していきます。
主なCPUブランドと製品ライン
Intel Xeonシリーズ
Bronze | エントリー向け(基本構成) |
Silver | バランス重視 |
Gold | 性能・拡張性重視 |
Platinum | 大規模・ミッションクリティカル用途向け |
AMD EPYCシリーズ
エントリー向け(低価格・省電力) | 7232P、7313P、9334P(Genoa) |
バランス重視(オールラウンド) | 7313、7343、7443、9334(Genoa) |
高性能・拡張性重視(ミドル〜ハイ) | 7543、7643、7713、9654(Genoa) |
ハイエンド・特殊用途向け | 7763、9754(Bergamo)、EPYC 9754X |
Fシリーズ(高クロックモデル) | 7F32、7F52、7F72 |
Xシリーズ(大容量キャッシュ) | 7T83X、7V73X |
Pシリーズ(1ソケット専用) | 7313P、7443P、9654P |
スペック表でよく見る用語解説
- コア数/スレッド数
-
同時に処理できる作業の数(並列処理性能)
- クロック周波数
-
1秒間に処理できる命令数(直列処理性能)
- キャッシュ
-
一時的にデータを保持する高速メモリ(データ転送効率に影響)
- TDP(熱設計電力)
-
放熱設計の基準になる数値(冷却や電源に影響)
これらのパラメータが、提案するサーバー構成の全体像に直結することを意識しましょう。
コア数と性能の関係:多ければいいわけではない
「コア数が多いほど良いCPUだ」と考えがちですが、それは誤解です。
例えば、シングルスレッド性能が重要な処理(Webサーバーや一部の業務アプリ)では、高クロックで少数コアの方がパフォーマンスが良い場合もあります。
逆に、仮想マシンを複数台同時に動かす仮想化基盤や、大量のバッチ処理を同時並行で処理する用途では、コア数が多いCPUが有利です。
さらに注意したいのが、「4コア × 2CPU」と「8コア × 1CPU」の違いです。
一見すると合計コア数は同じですが、2ソケット構成ではスロット数、電源、冷却、ライセンスなどの設計要素が増えます。
シングルソケット構成のほうがシンプルでコストパフォーマンスが良いケースも多くあります。
用途別CPU選定の考え方(実務に基づく)
CPUを選定するうえで、用途別の“重視すべきポイント”をまとめると以下のようになります。
仮想化用途(VMware、Hyper-Vなど)
- コア数重視(20コア以上のCPUを選定するケースも)
- メモリ帯域とのバランスが重要
- ハードウェア仮想化支援機能(Intel VT、AMD-V)も確認
ファイルサーバー/ADサーバー
- 高クロックまでは不要、4〜8コア程度でも十分
- 消費電力や冷却重視でBronzeやSilverでも対応可能
データベース(SQL Server、PostgreSQLなど)
- クロック周波数とキャッシュの多さが性能に直結
- ストレージI/Oとのバランスも要検討
映像処理/AI学習用途
- CPU自体よりも、GPUとの連携やPCIe帯域に着目
- EPYCのようにPCIeレーン数の多いCPUが選ばれることも
オールラウンド構成
- Xeon Silver(8〜16コア)が人気
- 高すぎず、低すぎないバランス型の提案がしやすい
実務に役立つCPU選定Tips
メモリとの連動を意識する
例えばIntel Xeonでは、CPU1つあたり6チャネル(12スロット)まで対応していることが多いですが、2チャネルしか使っていないと本来の性能が出ません。
CPUとメモリはセットで最適化する必要があります。
ライセンス形態に注意
Windows ServerやSQL Serverなどのライセンスは「コア数ベース」で課金されるケースがあります。
多すぎるコア数は、逆にライセンスコスト増になることも。
一世代前のCPUでも充分なこともある
最新世代のCPU(例:Xeon Gold 6314U)と、1〜2世代前のモデル(例:5218R)では、価格差が2倍以上になることも。
要件が満たせるのであれば“型落ちモデル”での提案も検討対象です。
よくある誤解とNG提案例
- 「最大スペックを提案すれば安心」という発想でGoldやPlatinumを選定し、価格が跳ね上がる
- CPUのTDPが高すぎて筐体内の熱対策が不十分になる
- 低価格のBronze系CPUでスペック不足→パフォーマンス不満を招く
構成が通らなかったり、案件で「別の見積が来て安かった」と言われる背景には、こうした構成ミスがあることも少なくありません。
まとめ:CPU選定は“提案の深さ”
CPUは単なる「部品の1つ」ではありません。
それをどう選び、なぜそれが妥当なのかを説明できることこそ、プリセールスとしての提案力を示す場です。
これからプリセールスを目指す方や、提案の“質”を高めたい方は、スペック表の数値を「意味のある選定理由」に変換できるようになりましょう。
次回は「メモリ編」です。
CPUとの関係性や、意外と見落としがちなチャネル構成・ECC・容量計算の考え方について解説します。