前回:【第3回】RAIDコントローラー編:冗長性と性能を支える“影の主役”を理解する
サーバー構成を考える上で、CPUやメモリに目が行きがちですが、実は「体感速度」や「安定稼働」の観点で非常に重要なのがストレージです。
「とりあえずSSDにすれば速くなる」と思っていた時期もありましたが、実際にはSAS、SATA、NVMeといった接続方式の違いや、耐久性を意識したディスク選定が求められます。
本記事では、サーバーにおけるストレージ選定の基本から、プリセールス視点での“構成の根拠の持たせ方”を解説します。
ストレージの基本分類:3つの接続方式とその違い
サーバー用ストレージは大きく以下の3つに分類されます。
インターフェース | 特徴 | 用途 | 備考 |
---|---|---|---|
SATA | 安価で広く流通。性能は控えめ | バックアップ、アーカイブ、一部OS領域 | 最大転送速度 6Gbps |
SAS | 高信頼・高性能。エンタープライズ向け標準 | 多くのサーバーで採用、RAID構成に最適 | 最大転送速度 12Gbps(24Gbpsも登場) |
NVMe(PCIe) | 圧倒的な高速性。直結型 | DB、仮想化基盤、AI/映像用途 | PCIe Gen4/Gen5対応に注意 |
ポイント:NVMeはRAIDカードを介さずCPU直結となることが多く、構成方法やRAID非対応要件も事前に確認が必要です。
ストレージの性能指標を正しく理解する
提案時には「容量」だけでなく「性能」も要件に含まれることが多くあります。
主な性能指標:
指標 | 意味 | 実務での読み方 |
---|---|---|
IOPS(Input/Output Per Second) | 毎秒の入出力処理数 | 小さなファイルを高速に扱う性能 |
スループット(MB/s) | 連続データの転送速度 | 映像/バックアップなど大容量転送向け |
レイテンシ | 応答までの時間(ms) | 小さいほどよい。NVMeは圧倒的に低い |
用途ごとに重要視すべき指標は異なります。
例:ファイルサーバーではIOPS重視、バックアップ用途ではスループット重視、DBではIOPS+レイテンシ両面が問われるケースが多いです。
書き込み耐久性の違い:RI・MU・WIって何?
エンタープライズ向けSSDでは、用途に応じて「書き込み耐久性」が分類されています。
種類 | 説明 | 主な用途 | 書き込み量の目安 |
---|---|---|---|
RI(Read Intensive) | 読み取り中心。書き込み少なめ | OS領域、読み出し多いワークロード | 約1 DWPD未満 |
MU(Mixed Use) | 読み書きバランス型 | 仮想化、業務システム | 約3 DWPD程度 |
WI(Write Intensive) | 書き込み多めでも耐久性高 | データベース、ログ解析、VDI | 約10 DWPD以上 |
DWPD(Drive Writes Per Day)とは「1日にディスク全体を書き換えられる回数」。
例えば2 DWPDのSSDは、1日で容量2倍の書き込みに耐えられる設計という意味です。
提案時には、用途に合わないグレードのSSDを選ばないよう注意が必要です。
RIを過剰に使うとコスト増、WIを過小評価すると故障リスクに直結します。
RAIDとの相性・構成設計の観点
RAIDとの組み合わせで注意すべき点もあります:
- RAID 5 × SSD:書き込み性能が落ちるため、用途次第ではRAID 10の方が適切
- 異なる耐久性(RI+WI)を混在させない:RAIDの性能・寿命がボトルネックに
- NVMeの場合はRAID非対応:ソフトウェアRAIDやOS側での冗長化を検討
RAIDコントローラーがNVMeをサポートしているかどうかも、提案時に確認すべき技術要件です。
提案・見積もり時のチェックリスト(プリセールス的観点)
以下の観点を持っておくと、提案の質が上がります:
- OS/データ領域/バックアップなどに分けて提案
- それぞれで必要な冗長性や性能要件を洗い出す
- 例:「VMを10台以上動かす」「日次バッチがある」など運用情報がヒントになる
- 空きベイの確保や、RAID拡張可能性も伝えておく
- 同じ容量・インターフェースでもRI/MU/WIが異なる
- HPEの例:RI(VK000960GWCSS)、MU(VK003840GWCMS)など
- エアフローやスロット数制限に引っかかることも
よくあるミスとそのリスク
- SATA SSDでRAID 5構成 → 思ったより遅い
- 用途に対して耐久性が不足 → 数ヶ月で寿命到来
- NVMeでRAID構成を組もうとして不可 → 設計やり直し
- 容量優先で最安モデルを選定 → 安定稼働に不安
プリセールスが「単に容量で選んだだけ」の構成では、後からの信頼を損なうことになりかねません。
まとめ:ストレージ選定は“運用視点”との対話がカギ
ストレージは、数値やスペックだけでは語れない、実運用と密接につながるパーツです。
プリセールスとしては、「容量」+「性能」+「耐久性」+「拡張性」のバランスを見極めながら、用途に最適な構成を提案できることが重要です。
「なぜその種類なのか?」「なぜRIではなくMUなのか?」と聞かれたとき、明確に答えられる構成設計が求められます。
次回は「ネットワーク編」です。
NICの構成方法や帯域設計、冗長構成の考え方について、現場で役立つ知識を解説していきます。