前回:【第6回】GPU編:AI?映像処理?GPU搭載サーバー提案の基本と落とし穴
プリセールスとしてサーバー構成を考えるとき、つい軽視されがちなのが「電源ユニット」です。
CPU、メモリ、GPU、ストレージなどの主要コンポーネントが揃っていても、電源ユニットの選定を誤ると“そもそも起動しない”、あるいは障害発生時に止まるなど致命的な事態を引き起こします。
この記事では、冗長化構成、容量の考え方、機種選定で注意すべき点をプリセールスの観点で整理します。
電源ユニットの基本知識:仕様を読み解くポイント
サーバーに搭載される電源ユニット(PSU:Power Supply Unit)は、以下のような仕様項目で比較・選定されます。
項目 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
出力容量(W) | PSU1台あたりの供給能力 | 500W〜1600Wが主流 |
冗長構成 | PSUを2台以上搭載して冗長化 | 片方故障時も継続稼働 |
効率(80 PLUS) | 電力変換効率のグレード | Gold / Platinum / Titanium など |
ホットスワップ対応 | 稼働中の交換可否 | 冗長PSUでは基本対応 |
冗長構成の考え方:可用性の基本
電源ユニットの冗長化は、システム可用性を高めるうえでの最重要設計項目です。
冗長構成の代表パターン
構成 | 内容 | 用途・特徴 |
---|---|---|
N(シングル) | PSU1基のみ | 開発環境・省コスト向け |
1+1(完全冗長) | PSU2基。片方故障でも継続稼働 | 業務システムに標準 |
N+N/N+1(高可用性) | 複数基構成。クラスタで分散 | データセンターなど |
多くのサーバー(特に2U以上)では、初期構成で2基の冗長電源が選べるようになっています。
プリセールスでは、「なぜ2基構成が必要なのか」「なぜ片方で足りないのか」まで説明できると信頼性が増します。
容量の考え方:構成パーツ全体の消費電力を意識する
単純に「大きい電源を選べば安心」と思われがちですが、実際には過剰容量はコスト増・低効率を招く場合もあります。
電源容量の目安(サーバー構成例)
構成 | 推奨PSU(目安) | 備考 |
---|---|---|
Xeon Silver ×1 / メモリ64GB / SSD×2 | 500〜550W | 1Uシステム |
Xeon Gold ×2 / メモリ256GB / HDD×4 / GPUなし | 800〜1000W | 2Uミドルクラス |
EPYC×2 / GPU×2(A100など) / SSD×8 | 1600〜2000W | 高負荷システム(4Uなど) |
電源設計の注意点
- 電源ユニットは「ピーク時の消費電力」をカバーする必要あり
- 高効率(Platinum/Titanium)ほど電力ロスが少なく、発熱も抑制
- 並列稼働時は「負荷分散」されるが、片方故障時に単体でまかなえる必要あり(=フルロード想定)
提案・見積もり時のチェックポイント(プリセールス的視点)
- メーカーの構成ツール(例:HPE PowerAdvisor、Dell EIPT)で確認する
- GPUや高性能CPUを含む構成では容量増
- 顧客側が「電源2基で運用」を想定しているケースあり
- 逆にコスト重視なら非冗長案の説明も有効
「24時間稼働前提」「保守契約あり」なら必須
- 100V/200V、C13/C19など接続形状に注意
- 高出力PSUは200V前提のものもあり
データセンター設計では三相200V要件が存在することも
よくあるミスとトラブル事例
- GPU搭載で1000W超え → PSUが定格不足で起動せず
- 冗長構成を選んだが、接続先PDUが片系のみで意味なし
- 電源形状(C14/C19)不一致で設置時に電源が入らない
- 電源ユニットが1基構成 → 障害でサーバー停止、信頼低下
プリセールスの段階で「電源にも意味がある」と伝えられれば、提案の厚みが一段階増します。
まとめ:電源選定は“サイレントな信頼性設計”
電源ユニットは直接的にパフォーマンスを左右するパーツではありませんが、「システムが動く・止まる」を根底から支える最重要部品のひとつです。
プリセールスとしては、
- なぜその容量か?
- なぜ冗長構成なのか?
- 電源設計で障害時も継続稼働できるのか?
といった設計意図を持ち、構成提案に反映できるようにしておくべきです。
“動いて当たり前”の仕組みほど、提案時に丁寧に説明することが、信頼につながります。
次回は「管理ソフト編」です。
iLO(HPE)やiDRAC(Dell)などのリモート管理機能と、提案での活用ポイントを整理していきます。