【第7回】電源ユニット編:冗長化と容量計算で“止まらないサーバー”を設計する

前回:【第6回】GPU編:AI?映像処理?GPU搭載サーバー提案の基本と落とし穴

プリセールスとしてサーバー構成を考えるとき、つい軽視されがちなのが「電源ユニット」です。

CPU、メモリ、GPU、ストレージなどの主要コンポーネントが揃っていても、電源ユニットの選定を誤ると“そもそも起動しない”、あるいは障害発生時に止まるなど致命的な事態を引き起こします。

この記事では、冗長化構成、容量の考え方、機種選定で注意すべき点をプリセールスの観点で整理します。

電源ユニットの基本知識:仕様を読み解くポイント

サーバーに搭載される電源ユニット(PSU:Power Supply Unit)は、以下のような仕様項目で比較・選定されます。

項目内容補足
出力容量(W)PSU1台あたりの供給能力500W〜1600Wが主流
冗長構成PSUを2台以上搭載して冗長化片方故障時も継続稼働
効率(80 PLUS)電力変換効率のグレードGold / Platinum / Titanium など
ホットスワップ対応稼働中の交換可否冗長PSUでは基本対応

冗長構成の考え方:可用性の基本

電源ユニットの冗長化は、システム可用性を高めるうえでの最重要設計項目です。

冗長構成の代表パターン

構成内容用途・特徴
N(シングル)PSU1基のみ開発環境・省コスト向け
1+1(完全冗長)PSU2基。片方故障でも継続稼働業務システムに標準
N+N/N+1(高可用性)複数基構成。クラスタで分散データセンターなど

多くのサーバー(特に2U以上)では、初期構成で2基の冗長電源が選べるようになっています。

プリセールスでは、「なぜ2基構成が必要なのか」「なぜ片方で足りないのか」まで説明できると信頼性が増します。

容量の考え方:構成パーツ全体の消費電力を意識する

単純に「大きい電源を選べば安心」と思われがちですが、実際には過剰容量はコスト増・低効率を招く場合もあります。

電源容量の目安(サーバー構成例)

構成推奨PSU(目安)備考
Xeon Silver ×1 / メモリ64GB / SSD×2500〜550W1Uシステム
Xeon Gold ×2 / メモリ256GB / HDD×4 / GPUなし800〜1000W2Uミドルクラス
EPYC×2 / GPU×2(A100など) / SSD×81600〜2000W高負荷システム(4Uなど)

電源設計の注意点

  • 電源ユニットは「ピーク時の消費電力」をカバーする必要あり
  • 高効率(Platinum/Titanium)ほど電力ロスが少なく、発熱も抑制
  • 並列稼働時は「負荷分散」されるが、片方故障時に単体でまかなえる必要あり(=フルロード想定)

提案・見積もり時のチェックポイント(プリセールス的視点)

STEP
構成内容から必要電源容量を計算
  • メーカーの構成ツール(例:HPE PowerAdvisor、Dell EIPT)で確認する
  • GPUや高性能CPUを含む構成では容量増
STEP
冗長化が求められているかヒアリング
  • 顧客側が「電源2基で運用」を想定しているケースあり
  • 逆にコスト重視なら非冗長案の説明も有効
STEP
ホットスワップ対応を明記

「24時間稼働前提」「保守契約あり」なら必須

STEP
ラックPDU(電源装置)との電圧・接続方式の整合
  • 100V/200V、C13/C19など接続形状に注意
  • 高出力PSUは200V前提のものもあり
STEP
フェーズ(単相/三相)まで確認

データセンター設計では三相200V要件が存在することも

よくあるミスとトラブル事例

  • GPU搭載で1000W超え → PSUが定格不足で起動せず
  • 冗長構成を選んだが、接続先PDUが片系のみで意味なし
  • 電源形状(C14/C19)不一致で設置時に電源が入らない
  • 電源ユニットが1基構成 → 障害でサーバー停止、信頼低下

プリセールスの段階で「電源にも意味がある」と伝えられれば、提案の厚みが一段階増します。

まとめ:電源選定は“サイレントな信頼性設計”

電源ユニットは直接的にパフォーマンスを左右するパーツではありませんが、「システムが動く・止まる」を根底から支える最重要部品のひとつです。

プリセールスとしては、

  • なぜその容量か?
  • なぜ冗長構成なのか?
  • 電源設計で障害時も継続稼働できるのか?

といった設計意図を持ち、構成提案に反映できるようにしておくべきです。

“動いて当たり前”の仕組みほど、提案時に丁寧に説明することが、信頼につながります。

次回は「管理ソフト編」です。

iLO(HPE)やiDRAC(Dell)などのリモート管理機能と、提案での活用ポイントを整理していきます。