ページ内に広告が含まれる場合がございます。
ここまでのシリーズでは、バックアップの基本・方式・ソフト・クラウド活用・容量最適化と技術的な側面を解説してきました。
しかし、どれほど優れた構成でも運用されなければ意味がありません。
本記事では、バックアップ体制を“机上の計画”から“動かす仕組み”へと落とし込むための実践ポイントを解説します。
これこそがプリセールスやインフラ担当者にとって、最も価値あるアウトプットです。
運用を支える3本柱
観点 | 要点 | 補足 |
---|---|---|
スケジューリング | いつ、どの対象を、どの方式で | 業務時間と帯域を避けた設計が重要 |
監視・通知 | 成功・失敗の把握、容量警告 | アラートメール、管理画面、SNMP連携など |
検証・訓練 | 実際に戻せるか?想定通りか? | リストアテスト、災害対策訓練(BCP) |
バックアップスケジュールの設計
基本構成例(中小企業向け)
項目 | 実装内容 |
---|---|
フルバックアップ | 毎週日曜 2:00〜 |
差分バックアップ | 月〜金曜 23:00〜 |
保存世代 | 日次7世代、週次4世代、月次6世代 |
注意点
- 社内回線の利用状況(業務時間帯は避ける)
- 仮想環境はVMotionやvStorage APIと競合しないよう調整
- SQLや業務アプリは「閉店処理」後の時間を狙う
モニタリングとアラート設計
項目 | 推奨設定内容 |
---|---|
成功/失敗通知 | 毎回レポート送信 or 異常時のみ通知(SMTP/Teams/Slack) |
容量警告 | 80%/90%で警告し、残容量の推移を週次で把握 |
エージェント死活監視 | 特定のVMやDBがバックアップ対象から漏れていないか |
アラートの集約 | Zabbix、PRTG、メール→統合監視基盤と連携可 |
復旧訓練(DR/BCP対応)
テスト実施例
項目 | 内容 | 頻度 |
---|---|---|
ファイル復旧訓練 | 共有フォルダの1ファイルをリストア | 月1回 |
仮想マシン復旧 | 1VMを別ホストで復元、起動確認 | 四半期ごと |
災害復旧演習 | 仮想基盤停止を想定し、復旧までの手順確認 | 年1回 |
テスト結果はドキュメント化し、RTO/RPOの実測値と比較
対象システムの担当者に実用性を確認してもらうのが理想
管理ドキュメントの整備
ドキュメント種別 | 内容 |
---|---|
バックアップ設計書 | 対象一覧、方式、保存場所、スケジュールなど |
リストア手順書 | 初心者でも対応できる手順(スクリーンショット付き) |
世代管理表 | 保持期間と構成一覧、法定保存年数に応じた設計 |
障害対応手順 | エラー時の連絡フロー、トラブルシューティングの基本方針 |
法令・監査対応の観点
- 個人情報保護法、インボイス制度、FISC安全対策基準などの対応で、7年以上の保管が求められる場合あり
- バックアップファイルの暗号化・改ざん防止・アクセス履歴管理が必要になるケースも
- ファイル形式:WORM、オブジェクトロックなどで整合性維持
- 場合によっては「クラウドとオンプレを併用した多層保管」が必要
運用フェーズ別のチェックリスト
フェーズ | チェック項目例 |
---|---|
導入初期 | □ バックアップ対象の洗い出し/分類 |
STEP
導入初期にやるべきこと
- バックアップ対象の洗い出しと分類
- スケジュール初期設定(フル/差分など)
- 通信帯域の確認(夜間帯への分散設計など)
- 初回のリストア検証(1台だけでも復元できるか確認)
STEP
運用中に定期的に実施すべきこと
- 週次のバックアップレポートを確認
- ストレージ使用量の推移をモニタリング
- 月1回程度のテストリストア(ファイルまたはVM単位)
- エラー通知設定や容量警告アラートの確認
STEP
拡張・環境変更時に確認すべきこと
- 新しく追加されたVMやアプリがバックアップ対象に入っているか
- ライセンスの使用状況と残数のチェック
- クラウド連携設定(保存先・暗号化・世代保持ポリシーなど)の再確認
まとめ:バックアップは「運用してこそ価値がある」
設計・導入・選定よりも、
- 運用が続いているか
- ルールが守られているか
- 戻せる状態が維持されているか
が最も重要です。
バックアップは“安心”ではなく、“信頼”の積み重ねによって初めて機能します。
技術だけでなく、人・ルール・文書を巻き込んだ総合的な管理が求められます。