第10回:バックアップ運用のベストプラクティス

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ここまでのシリーズでは、バックアップの基本・方式・ソフト・クラウド活用・容量最適化と技術的な側面を解説してきました。

しかし、どれほど優れた構成でも運用されなければ意味がありません。

本記事では、バックアップ体制を“机上の計画”から“動かす仕組み”へと落とし込むための実践ポイントを解説します。

これこそがプリセールスやインフラ担当者にとって、最も価値あるアウトプットです。

運用を支える3本柱

観点要点補足
スケジューリングいつ、どの対象を、どの方式で業務時間と帯域を避けた設計が重要
監視・通知成功・失敗の把握、容量警告アラートメール、管理画面、SNMP連携など
検証・訓練実際に戻せるか?想定通りか?リストアテスト、災害対策訓練(BCP)

バックアップスケジュールの設計

基本構成例(中小企業向け)

項目実装内容
フルバックアップ毎週日曜 2:00〜
差分バックアップ月〜金曜 23:00〜
保存世代日次7世代、週次4世代、月次6世代

注意点

  • 社内回線の利用状況(業務時間帯は避ける)
  • 仮想環境はVMotionやvStorage APIと競合しないよう調整
  • SQLや業務アプリは「閉店処理」後の時間を狙う

モニタリングとアラート設計

項目推奨設定内容
成功/失敗通知毎回レポート送信 or 異常時のみ通知(SMTP/Teams/Slack)
容量警告80%/90%で警告し、残容量の推移を週次で把握
エージェント死活監視特定のVMやDBがバックアップ対象から漏れていないか
アラートの集約Zabbix、PRTG、メール→統合監視基盤と連携可

復旧訓練(DR/BCP対応)

テスト実施例

項目内容頻度
ファイル復旧訓練共有フォルダの1ファイルをリストア月1回
仮想マシン復旧1VMを別ホストで復元、起動確認四半期ごと
災害復旧演習仮想基盤停止を想定し、復旧までの手順確認年1回

テスト結果はドキュメント化し、RTO/RPOの実測値と比較
対象システムの担当者に実用性を確認してもらうのが理想

管理ドキュメントの整備

ドキュメント種別内容
バックアップ設計書対象一覧、方式、保存場所、スケジュールなど
リストア手順書初心者でも対応できる手順(スクリーンショット付き)
世代管理表保持期間と構成一覧、法定保存年数に応じた設計
障害対応手順エラー時の連絡フロー、トラブルシューティングの基本方針

法令・監査対応の観点

  • 個人情報保護法、インボイス制度、FISC安全対策基準などの対応で、7年以上の保管が求められる場合あり
  • バックアップファイルの暗号化・改ざん防止・アクセス履歴管理が必要になるケースも
  • ファイル形式:WORM、オブジェクトロックなどで整合性維持
  • 場合によっては「クラウドとオンプレを併用した多層保管」が必要

運用フェーズ別のチェックリスト

フェーズチェック項目例
導入初期□ バックアップ対象の洗い出し/分類
STEP
導入初期にやるべきこと
  • バックアップ対象の洗い出しと分類
  • スケジュール初期設定(フル/差分など)
  • 通信帯域の確認(夜間帯への分散設計など)
  • 初回のリストア検証(1台だけでも復元できるか確認)
STEP
運用中に定期的に実施すべきこと
  • 週次のバックアップレポートを確認
  • ストレージ使用量の推移をモニタリング
  • 月1回程度のテストリストア(ファイルまたはVM単位)
  • エラー通知設定や容量警告アラートの確認
STEP
拡張・環境変更時に確認すべきこと
  • 新しく追加されたVMやアプリがバックアップ対象に入っているか
  • ライセンスの使用状況と残数のチェック
  • クラウド連携設定(保存先・暗号化・世代保持ポリシーなど)の再確認

まとめ:バックアップは「運用してこそ価値がある」

設計・導入・選定よりも、

  • 運用が続いているか
  • ルールが守られているか
  • 戻せる状態が維持されているか

が最も重要です。

バックアップは“安心”ではなく、“信頼”の積み重ねによって初めて機能します。
技術だけでなく、人・ルール・文書を巻き込んだ総合的な管理が求められます。