第3回:フル・増分・差分バックアップの違いとは?

ページ内に広告が含まれる場合がございます。

バックアップを実施する際、「どれくらいの頻度で、どれくらいのデータ量を保存するか」は、システム設計上の重要な要素です。

その答えを導く上で避けて通れないのが、「フルバックアップ/増分バックアップ/差分バックアップ」という3つの方式です。

単なる技術用語として覚えるのではなく、「それぞれの特性が、復旧の早さ・保存容量・処理時間にどう影響するのか」を理解しておくことが、最適なバックアップ設計の第一歩となります。

バックアップ方式3種の概要

方式保存対象特徴メリットデメリット
フルバックアップ対象全体常にすべてのデータをコピーシンプル、復元が早い容量・時間が大きい
増分バックアップ前回のバックアップ以降の変更分保存量が少ない、最も効率的バックアップが早くて軽い復元に全世代が必要
差分バックアップ前回のフルバックアップ以降の変更分中間的な方式復元が比較的シンプル増分より容量増えがち

フルバックアップ(Full Backup)

概要

対象データのすべてをそのままバックアップします。初回取得時や、週1回などの節目に実施されることが多い方式です。

メリット

  • データの整合性が高い
  • 単独のバックアップファイルで即時リストア可能
  • 運用トラブルが少ない(構成がシンプル)

デメリット

  • 毎回すべてのデータをバックアップ → 時間も容量も膨大
  • 長期保存コストが上がりがち(特に仮想環境やDB)

典型的な使いどころ

  • 小規模環境(データ量が少ない)
  • フルで週1+増分or差分を組み合わせる「階層バックアップ」

増分バックアップ(Incremental Backup)

概要

直前のバックアップ以降に変更があったデータのみを保存します。

月曜にフルを取って、火曜以降は毎日増分を実施するような設計が典型です。

曜日取得内容
フル(すべて)
月曜→火曜の差分
火曜→水曜の差分
水曜→木曜の差分

メリット

  • 最小限の容量で毎日バックアップ可能
  • ネットワーク帯域やストレージ負荷が低い
  • クラウド転送と相性が良い(増分送信)

デメリット

  • 復元時にすべての増分ファイルが必要
  • どれかが壊れると復元できない可能性
  • 一部のバックアップソフトでは世代管理が複雑

典型的な使いどころ

  • クラウド連携バックアップ
  • サーバ台数が多く、負荷分散が重要な構成

差分バックアップ(Differential Backup)

概要

フルバックアップ以降の変更分をすべて保存します。
火曜・水曜・木曜と日が進むにつれて差分は増えていきます。

曜日保存内容
フル(すべて)
月→火の差分
月→水の差分
月→木の差分

メリット

  • フル+最新差分の2つで復元可能 → 実務運用しやすい
  • データ整合性が比較的確保しやすい

デメリット

  • 差分が肥大化しやすい(時間が経つほど大きくなる)
  • 増分よりも容量効率は劣る

典型的な使いどころ

  • 中堅企業のファイルサーバ
  • 毎日変更がそれほど多くない業務システム

実務での使い分け例

環境推奨構成補足
小規模オフィス(5人以下)フルのみ(週2〜3回)運用が簡単、世代管理も容易
中規模事業所(従業員50人程度)週1フル+毎日差分バランス型、復元時間も短い
データセンター/仮想環境週1フル+増分+重複排除ストレージ節約と高速化の両立
クラウド連携バックアップCBT活用の増分(Veeam/Acronis)帯域を意識した構成が重要

さらに進んだ手法:CBT(Changed Block Tracking)

VMwareやHyper-Vなど仮想環境では、CBTという技術で「変更されたブロック」だけを検出し、増分バックアップを高速化する手法が使われます。

VeeamやArcserve、Acronisなど主要ソフトが対応しており、仮想基盤の負荷軽減に有効です。

まとめ:方式選定は「何を守るか」「どう戻すか」から考える

バックアップ方式の選定は

  • 対象の重要性(RPO/RTO)
  • ネットワークやストレージの負荷
  • 運用のシンプルさ
    を総合的に判断する必要があります。

単に「フルは安心」「増分は軽い」といった感覚で選ぶのではなく、復元設計から逆算して構成を組むのが、プリセールス・インフラ設計者としての重要な視点です。