第4回:バックアップ対象とスコープの決め方

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バックアップ設計において、「何を、どこまで、どのようにバックアップするか?」という対象の特定(スコーピング)は、復元可能性や運用コストを左右する最重要ポイントです。

データだけを守ってもシステムは復旧できません。逆に、全てをバックアップするとコストが跳ね上がります。
このバランスを見極めるためには、「対象の明確化」と「分類」が欠かせません。

本記事では、企業インフラにおける代表的なバックアップ対象と、それぞれに適した保護手法を体系的に解説します。

バックアップ対象の全体像

バックアップ対象は、大きく以下の5つに分類されます。

カテゴリ具体例保護目的
① データファイル文書、設計書、帳票、CSV、CADファイルなど日常業務データの保全
② システム構成情報OS設定、レジストリ、ネットワーク設定、ドライバ類サーバ再構築の簡易化
③ アプリケーションERP、会計ソフト、CADツール、業務アプリ復旧時の環境再現
④ データベースSQL Server、PostgreSQL、Oracleなどトランザクション整合性の保持
⑤ 仮想マシン全体VMware/Hyper-Vの仮想ディスク+スナップショット包括的な復元性の確保

守るべきものの優先順位を決める「可用性階層」

企業規模や業務特性により、バックアップ対象の優先順位は異なります。以下は典型的な階層モデルです。

■ 可用性階層モデル(バックアップ優先度)

優先度バックアップ対象備考(復旧優先度)
重要な業務DB・ファイル優先度 最重要
アプリ設定・構成ファイル業務システムの再現に必須
OS・中間層ミドルウェア再構築時の時間短縮
仮想基盤そのもの(ESXi等)優先度 中程度
共有フォルダ・一時ファイルなど優先度

「優先度が高い順に、復旧時間(RTO)を短くする構成にする」のが原則です。

バックアップ対象の詳細と手法

業務データ(ファイルサーバやNAS)

  • Word/Excel、PDF、CADなどのファイル資産
  • SMBプロトコル経由でアクセスする共有フォルダ群
推奨手法
  • フル+増分 or 差分
  • アクセス権込みの取得(NTFS ACLなども保持)
  • NAS向け専用アプライアンス(例:Synology + Active Backup)

システム構成(OS・レジストリ・設定)

  • OSのバージョン/ネットワーク設定/レジストリ
  • Active Directoryの構成情報(DC)
推奨手法
  • イメージバックアップ(OS丸ごと)
  • Windows Server Backup や Veeam Agent 等の利用
  • ドメインコントローラは「System State」バックアップ必須

アプリケーション

  • ERP・CRM・販売管理・設計系ツールなど
  • アクティベーション情報やライセンスキー
推奨手法
  • アプリ単位で復旧するより、VM単位のリストアが現実的
  • 設定ファイル(.ini/.conf)を個別バックアップするケースもあり
  • パッチ適用履歴の記録もセットで残すとベター

データベース(SQL / Oracle / PostgreSQL 等)

  • 業務システムの中核となる構造化データ
  • トランザクション整合性が重要
推奨手法
  • 論理バックアップ(ダンプ)+物理バックアップの併用
  • SQL Serverなら「VSS(Volume Shadow Copy Service)」と連携
  • 一部製品では専用プラグイン(VeeamのSQL拡張など)も用意

仮想マシン単位

  • OS+アプリ+データを丸ごと仮想マシンとして保存
  • VMware(VMDK)やHyper-V(VHDX)
推奨手法
  • 仮想基盤対応ソフト(Veeam、Acronis、Nakivoなど)
  • CBT(Changed Block Tracking)で増分バックアップを効率化
  • VM単位の即時リストア(インスタントリカバリ)にも対応可

バックアップ除外対象も明確に

バックアップ対象を定義する一方で、「あえて取らないもの」も決めることが重要です。

  • キャッシュ、テンポラリファイル
  • 一時ログ、インストーラの残骸
  • ゴミ箱や仮想プリンタ出力ファイル(PDF spoolなど)

→ 保存対象を絞ることで、容量やネットワーク負荷が最適化されます。

スコープ設計の3つの視点

  1. 何を守るか(業務単位)
     → 重要データ・構成・復元のしやすさを基準に選定
  2. どこまで戻すか(復旧粒度)
     → フォルダ単位?VM丸ごと?個別ファイルのみ?
  3. 誰が戻すか(復旧担当者)
     → 情報システム部?現場?リモート運用委託?

これらを可視化することで、実用性の高いバックアップスコープが定義できます。

まとめ:「すべて」ではなく「最適な対象を守る」ことが設計力

バックアップは「全部取れば安心」ではありません。
運用負荷、容量、復旧時間をトータルで考え、必要なものを、必要なだけ、確実に戻せる状態にしておくのが理想です。