ページ内に広告が含まれる場合がございます。
企業のIT現場でありがちな誤解の一つが、「バックアップを取っていれば安心」という考えです。
しかし、本当に重要なのは“戻せるかどうか”です。リストア(復元)に失敗した瞬間、そのバックアップはただの“不要なデータの山”になります。
この回では、実際のインフラ運用において欠かせない「リストアテスト」の考え方と、バックアップ全体の検証設計の進め方を解説します。
なぜリストアテストが重要か?
よくある失敗パターン
- バックアップは取得済み → いざリストアしようとしたら破損
- 暗号化されたデータをバックアップしていたことに気づかず、ランサム被害
- 復旧手順書がなく、担当者不在時に対応できなかった
- バックアップソフトの仕様でログイン権限が合わず、復元不可
→ これらの多くは、バックアップデータ自体の整合性や、リストアの手順検証がされていないことで起きます。
テスト対象のリストア粒度(復旧単位)
粒度 | 例 | テスト目的 |
---|---|---|
単一ファイル | 請求書PDF、Excel帳票 | ファイル操作レベルの精度 |
フォルダ単位 | 部署共有フォルダ | アクセス権ごとの復旧確認 |
OS・VM単位 | Windows Server VM | フルリストアによる業務再開検証 |
DB単位 | SQL Server/Oracle | トランザクション整合性の確認 |
アプリレイヤー | ERP/会計ソフト環境 | 動作検証と設定維持の確認 |
→ このように、システム構成に応じた「復旧の粒度」を事前に定義することが、テスト設計の出発点となります。
リストアテストの3大設計要素
RTO(目標復旧時間)に収まるか?
- どのくらいの時間で業務を再開できるか?
- テストで測定:復元開始からアプリ正常起動までの時間を計測
- RTOが超過するなら:復旧方式の見直し(例:インスタントリカバリ)
RPO(目標復旧時点)に達しているか?
- 復元データはどの時点のものか?(前日/1時間前/直前)
- 増分バックアップ頻度が十分か?
- テスト方法:ファイル更新履歴やDBログとの照合
業務担当者レベルで確認可能か?
- 単に「復元成功」ではなく、「そのデータで業務ができる」ことが重要
- 実際の現場担当者に確認してもらうのがベスト
- 例:部門のファイル復旧 → 正常に開けるか/改ざんされていないか
テストパターンの設計例
テスト分類 | 内容 | 頻度 |
---|---|---|
サンプル復元テスト | 1ファイルまたは1フォルダのリストア | 月1回〜 |
フルVMリカバリ | 仮想マシン1台の完全復元テスト | 四半期ごと |
障害シナリオ演習 | 擬似ランサム感染 or 災害時の復旧訓練 | 年1回程度 |
自動化復元検証 | スクリプトでの夜間復元テスト(例:Veeam SureBackup) | 毎日〜週次 |
テスト手順書・運用設計のポイント
- 事前にリストア対象とテスト担当者を決めておく
- 復旧後に「正常稼働判定のチェックリスト」を用意
- ネットワーク構成/DNS設定/アプリ接続も確認対象に含める
- 復元ログを残し、失敗時の対応手順をドキュメント化
自動化ツール・仕組みの活用例
- Veeam SureBackup
→ バックアップ後に自動テストVMを起動し、アプリレベルで検証 - Arcserve UDPの仮想スタンバイ機能
→ 障害時に即時切り替えできるよう仮想環境を用意 - シェルスクリプト/PowerShell/Ansibleなどでの自動復元検証
→ 人的作業を最小限に抑え、失敗リスクを早期検知する体制が理想です。
まとめ:「取るだけ」のバックアップは、信頼できない
バックアップとは
- 「災害時に役立つはず」の保険ではなく、
- 「確実に使える状態」を保証するシステム
設計段階から「どう戻すか」「戻せたか検証するか」を組み込んで初めて、“本当の意味でのバックアップ”と言えます。