第5回:バックアップとリストアのテスト設計

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企業のIT現場でありがちな誤解の一つが、「バックアップを取っていれば安心」という考えです。

しかし、本当に重要なのは“戻せるかどうか”です。リストア(復元)に失敗した瞬間、そのバックアップはただの“不要なデータの山”になります。

この回では、実際のインフラ運用において欠かせない「リストアテスト」の考え方と、バックアップ全体の検証設計の進め方を解説します。

なぜリストアテストが重要か?

よくある失敗パターン

  • バックアップは取得済み → いざリストアしようとしたら破損
  • 暗号化されたデータをバックアップしていたことに気づかず、ランサム被害
  • 復旧手順書がなく、担当者不在時に対応できなかった
  • バックアップソフトの仕様でログイン権限が合わず、復元不可

→ これらの多くは、バックアップデータ自体の整合性や、リストアの手順検証がされていないことで起きます。

テスト対象のリストア粒度(復旧単位)

粒度テスト目的
単一ファイル請求書PDF、Excel帳票ファイル操作レベルの精度
フォルダ単位部署共有フォルダアクセス権ごとの復旧確認
OS・VM単位Windows Server VMフルリストアによる業務再開検証
DB単位SQL Server/Oracleトランザクション整合性の確認
アプリレイヤーERP/会計ソフト環境動作検証と設定維持の確認

→ このように、システム構成に応じた「復旧の粒度」を事前に定義することが、テスト設計の出発点となります。

リストアテストの3大設計要素

RTO(目標復旧時間)に収まるか?

  • どのくらいの時間で業務を再開できるか?
  • テストで測定:復元開始からアプリ正常起動までの時間を計測
  • RTOが超過するなら:復旧方式の見直し(例:インスタントリカバリ)

RPO(目標復旧時点)に達しているか?

  • 復元データはどの時点のものか?(前日/1時間前/直前)
  • 増分バックアップ頻度が十分か?
  • テスト方法:ファイル更新履歴やDBログとの照合

業務担当者レベルで確認可能か?

  • 単に「復元成功」ではなく、「そのデータで業務ができる」ことが重要
  • 実際の現場担当者に確認してもらうのがベスト
  • 例:部門のファイル復旧 → 正常に開けるか/改ざんされていないか

テストパターンの設計例

テスト分類内容頻度
サンプル復元テスト1ファイルまたは1フォルダのリストア月1回〜
フルVMリカバリ仮想マシン1台の完全復元テスト四半期ごと
障害シナリオ演習擬似ランサム感染 or 災害時の復旧訓練年1回程度
自動化復元検証スクリプトでの夜間復元テスト(例:Veeam SureBackup)毎日〜週次

テスト手順書・運用設計のポイント

  • 事前にリストア対象とテスト担当者を決めておく
  • 復旧後に「正常稼働判定のチェックリスト」を用意
  • ネットワーク構成/DNS設定/アプリ接続も確認対象に含める
  • 復元ログを残し、失敗時の対応手順をドキュメント化

自動化ツール・仕組みの活用例

  • Veeam SureBackup
     → バックアップ後に自動テストVMを起動し、アプリレベルで検証
  • Arcserve UDPの仮想スタンバイ機能
     → 障害時に即時切り替えできるよう仮想環境を用意
  • シェルスクリプト/PowerShell/Ansibleなどでの自動復元検証

人的作業を最小限に抑え、失敗リスクを早期検知する体制が理想です。

まとめ:「取るだけ」のバックアップは、信頼できない

バックアップとは

  • 「災害時に役立つはず」の保険ではなく、
  • 「確実に使える状態」を保証するシステム

設計段階から「どう戻すか」「戻せたか検証するか」を組み込んで初めて、“本当の意味でのバックアップ”と言えます。