第10回:マルチクラウドとハイブリッドクラウド設計の基本

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クラウド活用が進む中、近年注目されているのが「マルチクラウド」と「ハイブリッドクラウド」という設計戦略です。

  • マルチクラウド:複数のクラウドサービスを併用する構成
  • ハイブリッドクラウド:オンプレミスとクラウドを連携させた構成

本記事では、それぞれの概念、メリット・デメリット、代表的な活用パターンと、AWS・GCP・Azureにおける支援サービスを紹介します。

マルチクラウド vs ハイブリッドクラウドの違い

概要特徴主な目的
マルチクラウド複数のパブリッククラウドを同時に利用ベンダーロックイン回避、最適サービスの選択
ハイブリッドクラウドオンプレミスとクラウドを統合的に運用既存システムの延命、安全な段階移行

マルチクラウドの代表的なパターン

パターン説明
分散利用型サービスごとに最適なクラウドを使い分けAIはGCP、基幹系はAWS
バックアップ用途主要クラウドに障害があった場合の予備としてメインはAzure、DRにAWS
並列運用型同一アプリケーションを複数クラウドで動作SLA強化、地域ごとの対応
メリット
  • 柔軟なサービス選択
  • コンプライアンス要件への対応(地域分散)
デメリット
  • 運用・監視が複雑化
  • ネットワーク接続やIAMの共通化が困難

ハイブリッドクラウドの代表的なパターン

パターン説明適用例
フェデレーション型認証・IDを共通管理AD連携、SSO構成
拡張型ピーク時のみクラウドへリソース追加バーストスケール
段階移行型一部システムからクラウドに順次移行会計、CRMなど
メリット
  • 既存資産を活かせる
  • データ主権・セキュリティ制約の回避
デメリット
  • 接続の安定性確保が必要(専用線、VPNなど)
  • ネットワークやストレージの構成が複雑化

各クラウドの支援サービスと戦略

クラウドマルチクラウド支援ハイブリッド支援
AWSCloud WAN、Control Tower、EKS AnywhereAWS Outposts、Direct Connect
GCPAnthos、BigQuery OmniInterconnect、Transfer Appliance
AzureAzure Arc、Defender for CloudAzure Stack、ExpressRoute

マルチクラウド・ハイブリッドでの設計ポイント

IAM・認証の統合
  • Azure ADやOktaなどのIDフェデレーションで一元管理
  • IAMの最小権限設計は各クラウドに合わせて個別実装も必要
ネットワーク構成
  • VPN・専用線(AWS Direct Connect、Azure ExpressRoute、GCP Interconnect)で安全・低遅延接続
  • DNS・ルーティングの一元化も必要(Global DNS)
運用・監視基盤
  • 監視ツール(Datadog、Zabbix、Prometheusなど)で横断的な可視化
  • 各クラウドのログを集約・統合(例:SIEM連携)

よくある失敗と注意点

課題説明回避策
管理の煩雑化IAM・タグ・ログ・請求がクラウドごとにバラバラ管理方針を明文化し統一ツールを活用
コストが想定以上各クラウドの最低利用料金・転送料金が積み上がるコスト集計はタグ+BI+アラート設定
スキル不足クラウドごとに専門知識が必要担当を明確化+横断チームの編成

組織・体制としての導入戦略

  • 各クラウドにチャンピオン(技術責任者)を置く
  • クラウド横断の標準化委員会を設ける(タグ設計、監視ポリシー、IAM統制など)
  • 導入初期は共通サービス(ID基盤、ログ管理)から取り組むのが吉

おわりに:クラウドの多様性を「戦略」に変える

マルチクラウドやハイブリッドクラウドは、「とりあえず併用する」のではなく、目的と役割を明確にして戦略的に設計することが成功のカギです。

  • コスト分散、サービス最適化 → マルチクラウド
  • レガシー資産活用、段階移行 → ハイブリッド

次回からは応用編として、「クラウドにおけるセキュリティ設計」「インフラCI/CDパイプライン」「モダンアーキテクチャ(マイクロサービス等)」なども展開可能です。