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「クラウドだから障害がない」は大きな誤解です。
むしろクラウドにおいても「どこで・何が・どれだけ止まるか」を想定し、あらかじめ備える設計(可用性設計)が重要です。
本記事では、AWS・GCP・Azureにおける障害対策と可用性設計の基本的な考え方、よくあるパターン、設計時のポイントを解説します。
クラウドでも障害は起こる
クラウドにおける主な障害の種類
種類 | 例 | 対策の方向性 |
---|---|---|
インスタンス障害 | VMの停止、再起動 | 自動復旧、自動スケール |
ゾーン障害 | AZ(Availability Zone)単位の停止 | マルチAZ配置 |
リージョン障害 | 地域全体の停止(まれ) | バックアップ+DR構成 |
サービス障害 | S3やDNSなどの一部機能停止 | サービス依存を分散設計 |
各クラウドにおける「可用性設計」の階層
階層 | AWS | GCP | Azure |
---|---|---|---|
ゾーン | Availability Zone | Zone | Availability Zone |
リージョン | Region | Region | Region |
グローバル | Globalサービス(S3, IAM) | Global Load Balancer | Global Load Balancerなど |
VM・アプリケーションの可用性を高める設計
- 基本方針
-
- 単一インスタンスに依存しない
- 1つのゾーン障害でも継続できる
- フェイルオーバーを自動化する
- 典型的構成例(AWSベース)
-
- EC2 × 2台(別AZに分散)+ Auto Scaling Group
- RDS Multi-AZ構成(レプリカ自動フェイルオーバー)
- ALB(Application Load Balancer)でトラフィック分散
各クラウドでの高可用性構成要素
項目 | AWS | GCP | Azure |
---|---|---|---|
VM自動復旧 | Auto Recovery(EC2) | Self-healing VM | VM自動再デプロイ(可用性セット) |
ゾーン分散 | Auto Scaling Group with Multi-AZ | Instance Group with Zones | Availability Set / Availability Zone |
ロードバランサ | ALB / NLB | Cloud Load Balancing | Azure Load Balancer / Application Gateway |
データベース可用性 | RDS Multi-AZ / Aurora Cluster | Cloud SQL High Availability | Azure SQL Geo-replication |
フェイルオーバー設計の要点
- 自動フェイルオーバーの設計ポイント
-
- VM停止時の自動再起動 or 自動再配置
- DBのプライマリ → セカンダリ切替を自動化
- DNS切り替え(Route 53 / Cloud DNS / Azure DNS)との連携
- 定期的なフェイルオーバーテストも必須
-
- 手動フェイルオーバーによる挙動確認
- 切替時間や影響範囲の把握
障害対策のためのデータ保護
保護対象 | 対策 | 備考 |
---|---|---|
スナップショット | EBS Snapshot / GCP Disk Snapshot / Azure Backup | バックアップはAZ間・リージョン間に分ける |
オブジェクトストレージ | S3 versioning / GCS Object Versioning / Azure Blob Soft Delete | 意図しない削除対策として有効 |
バックアップの多重化 | リージョンまたぎのコピー | Vault、LifeCycle設定で自動化可能 |
ディザスタリカバリ(DR)構成の基本
DRとは?
障害発生時に、別リージョンやオンプレミスに切り替えて業務を継続する仕組み
DRタイプ | 概要 | コスト | 復旧時間 |
---|---|---|---|
ホットDR | 常時同期・常時稼働 | 高 | 数分以内 |
ウォームDR | 定期同期・起動は手動 | 中 | 数十分〜 |
コールドDR | バックアップだけ保持 | 低 | 数時間〜数日 |
各クラウドでのDR構成支援サービス
- AWS:Route 53、CloudEndure DR、S3 Cross-Region Replication
- GCP:Storage Transfer Service、Cloud DNS、Backup and DR Service
- Azure:Azure Site Recovery、Geo-redundant Storage(GRS)
高可用性構成の注意点とベストプラクティス
課題 | 解決策 |
---|---|
費用が高くなりがち | スポット/プリエンプティブ+最小構成で設計 |
テストが難しい | 計画障害によるシミュレーションを月1で実施 |
設計が複雑化 | まずはシンプルな「二重化」から始めること |
おわりに:クラウドでも「止まる前提」で設計する
クラウドは高可用性を支援する仕組みが豊富ですが、自動で可用になるわけではありません。
障害を前提に「構成の冗長化、フェイルオーバー、復旧手順」をあらかじめ設計することが、信頼性の高いシステムの鍵です。
次回は、「マルチクラウド・ハイブリッドクラウド設計の基本」をテーマに、各クラウドを併用するパターンと注意点を解説します。