第8回:ネットワーク設計のベストプラクティス

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ネットワーク構築は、単に「機器をつなぐ」ことではありません。

安定して、効率よく、安全に運用し続けるには、設計段階での“ちょっとした配慮”や“構成の工夫”が不可欠です。

本記事では、実務で役立つネットワーク設計のベストプラクティスを「冗長性」「QoS」「スモールスタート」の3つの視点から解説します。

冗長構成の基本:障害に備える設計

なぜ冗長化が必要なのか?

ネットワークは単一障害点(SPOF:Single Point of Failure)があると、そこがダウンしただけで全体に影響を及ぼします。

冗長化は可用性と信頼性を確保するための基本戦略です。

冗長化の例とパターン

対象冗長化方法備考
スイッチスタック構成 / リング構成L2ループ制御(STP)も考慮
ルーターVRRP / HSRP / ゲートウェイ冗長仮想IPアドレスを使って切替
回線マルチキャリア / LTEバックアップキャリア分散が理想
サーバ接続デュアルNIC + リンクアグリゲーション物理断線対策にも効果的

プリセールスのポイント

  • 可用性要件(SLA)を確認
  • コストとのバランス説明が重要(“全冗長”は非現実的なケースも)
  • 機器選定時に冗長機能が内蔵されているかチェック

QoS(Quality of Service)の活用:通信品質の最適化

QoSとは?

QoSとは、通信の優先順位を設定し、帯域や遅延を制御する技術です。
すべてのトラフィックを平等に扱うと、業務に必要な通信が遅延・輻輳する可能性があります。

QoSが必要なケース

  • 音声通話(VoIP)やWeb会議(Zoom, Teamsなど)
  • 映像配信、監視カメラの映像転送
  • 帯域を食うバックアップ・ファイル転送と共存

主なQoS技術

技術概要
優先制御(Priority)高重要度の通信を優先
帯域制御(Rate Limit)最大帯域の制限
キューイング(Queue)通信を分類し、順番に処理
CoS / DSCPVLANタグやIPヘッダに優先度を埋め込む

プリセールスでの提案例

「音声通話がブツブツ切れる」というニーズがあるなら、「L2スイッチでのQoS対応+DSCP指定」のような形で提案可能です。

スモールスタート設計:将来に備えた拡張性

スモールスタートとは?

「今すぐフル構成にしないが、将来の拡張を見据えた構成」。
コストを抑えながら、成長・変更に強いインフラを作るための設計思想です。

スモールスタート設計のコツ

項目設計のポイント
VLAN設計あらかじめ余白のあるVLAN設計に(例:部署ごとに10刻み)
IPアドレス設計予備を残したサブネット分割
ラック/電源/スペース空ポート・空U・電源容量に余裕を持たせる
スイッチスタック1台スタート → 将来的に2台目追加可能な構成
モジュール構成機器空きスロットで将来拡張に対応(FW、LBなど)

実際の事例:小規模オフィスのネットワーク

  • 初期:10台程度の端末 → PoEスイッチ1台 + AP1台
  • 将来:会議室や支店増加 → VLAN追加 + スイッチスタック拡張
  • VPN/UTMもリースで導入し、初期投資を抑える

「すぐに全部要らないけど、将来困らない」構成が、経営層にも受け入れられやすい

トラブルを防ぐ設計視点

よくある失敗と対策

失敗例原因対策
VLAN構成を後から変えられず大混乱一括VLANでスタートスモールでも部署単位でVLAN割当を
スイッチがフルポートで拡張不可最初にPoE非対応機器を選定PoE+とスタック拡張可能なモデルを選定
QoS未設定でWeb会議が不安定VoIPとバックアップが同時通信優先度制御 or 帯域制限を事前に設計

プリセールス視点:提案に深みを出すコツ

  • 「将来的に拠点追加や業務増加の可能性ありますか?」
  • 「Web会議やVoIPは社内で使われていますか?」
  • 「障害時にどこまでの復旧時間が求められますか?」

技術的な話に入りすぎず、“お客様の業務に寄り添ったヒアリング”を意識することで、設計の深度が自然に高まります。

まとめ

ネットワーク設計は、現状を満たすだけでなく、将来・障害・優先度といった複数の視点から最適化していく必要があります。

  • 冗長性:止まらないネットワークを
  • QoS:大事な通信を守るしくみ
  • スモールスタート:予算と将来性のバランス

プリセールスもエンジニアも、「設計に思想を込める」ことが、お客様との信頼関係を築く第一歩です。