第9回:ラックの物理設置とフロア設計

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床が抜ける?空調が効かない?電源が足りない? ラック設置のリアルな落とし穴を防ぐ

サーバーラックを導入する際、「スペック表通りのサイズだから問題ない」と考えるのは危険です。

実際の現場では、「床がたわんだ」「空調が全然効かない」「電源ブレーカーが飛んだ」といった物理的な設計ミスが、トラブルの原因になります。

本記事では、ラックの設置場所に求められる物理的な要件(床荷重・空調・電源・レイアウト)について、現場でありがちな落とし穴とその回避策を解説します。

床荷重 ― 「ラック+中身」の重量に耐えられるか?

ラック1本で500kgを超えることも

ラック自体の重量は30~70kg程度ですが、以下を搭載した場合の総重量は想像以上です:

  • 1Uサーバー × 10台(各15kg) = 約150kg
  • UPS(2U、重量型) = 約40kg
  • ストレージ(3U、RAID構成) = 約60kg
  • PDU、棚板、スイッチ類一式 = 約30kg
  • ケーブル+ラック本体 = 約70kg

合計:約350~450kgが一般的。フル実装では600kg超も現実的です。

床荷重の目安

フロアタイプ一般的な耐荷重備考
一般事務所のOAフロア約300kg/m²軽量ラックならOKだが制限あり
フリーアクセスフロア(強化型)約500~600kg/m²実装内容により補強が必要
データセンター用床約1000kg/m²以上安全域あり、推奨設置環境

対策例:重量分散マット底面プレートアンカー固定+床補強の組み合わせ

空調 ― サーバーが熱暴走しない空間設計

ラック内のエアフローを活かすための空間

多くのサーバーは前面吸気・背面排気です。設置場所に求められる空調条件は以下の通り:

  • ラック前面:約800mm以上の空間を確保し、吸気が遮られないようにする
  • 背面:約500mm以上の通風スペースを確保し、熱が滞留しないようにする
  • 部屋全体に空気の流れ(対流)を意識した構造が望ましい

部屋ごとの冷却戦略

部屋の規模冷却方式備考
小規模(1〜2ラック)壁掛けエアコンでも対応可排熱が室内にこもりがち、夏場は要注意
中規模(〜5ラック)床置型エアコン+換気扇エアフローを意識したファン構成が必要
データセンター級冷却ゾーニング(コールド/ホットアイル)ラック側面の密閉性が効果的に作用する

対策例:ブランキングパネルの活用排気ファン付きドア天井排気ダクト

電源 ― ラック全体の消費電力とブレーカー設計

サーバー1台あたり100~300Wが目安

ラック全体で以下のような電力を消費します:

  • サーバー × 10台 = 約1,500W
  • スイッチ × 2台 = 約100W
  • UPS(自身の損失も含む) = 約200W
  • 合計:約2,000W(= 約20A相当 @100V)

単相100V 15Aのブレーカーでは容量オーバーになりやすい。

三相電源 or 200V系の導入検討

  • 大型ラックでは単相200V/三相200Vの導入が主流
  • UPSやPDUも200V専用モデルを選ぶことで効率化可能
  • ラック2系統構成(UPS A/B)時は、分電盤側の設計も要注意

対策例:電力モニタ付きPDUを用いて、常に負荷状況を把握する

ラックレイアウト ― 作業性と冗長性の両立

最低限必要な動線・作業空間

スペース最低推奨寸法備考
ラック前面800mm以上ドア開閉+ケーブル操作
ラック背面500mm以上排熱+保守作業
ラック間通路1000mm以上人がすれ違える幅

通路が狭いとメンテナンスの際にケーブル抜け・転倒事故の原因に。

ラック配置の注意点

  • 壁寄せ設置NG:背面アクセス不能=メンテ不能
  • ラックの向き:すべて統一することで、風向き・配線・監視が整う
  • 耐震対策:ラックの向き・位置を考慮し、揺れの方向に強い配置

まとめ:インフラの“最下層”まで設計するのがプロの仕事

ラックの性能や搭載機器に注目しがちですが、それを支える「床」「空気」「電源」「空間」がしっかりしていなければ、どれだけ良い機器を並べても安定稼働は望めません。

設置前には次のチェックを忘れずに:

  • 床荷重の制限に対して安全率は十分か
  • 空調設計に無理はないか(夏場テスト済みか)
  • 電源容量と配線の冗長性は確保されているか
  • 通路・作業スペースが取られているか

ラック設計の最終ステップとして、物理環境の設計にこそ最も時間をかけるべきなのです。