【第10回】ストレージとバックアップ・アーカイブの考え方

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ストレージというと「データを保存する場所」としての役割が強調されがちですが、ビジネスにおいて重要なのは“保存されたデータを必要なときに取り出せること”です。

これは単にRAIDを組めばいい、容量を確保すればいいという話ではなく、「バックアップ」と「アーカイブ」という2つの視点から、保存の“その先”を設計することが求められます。

バックアップ vs アーカイブ:定義の違い

項目バックアップアーカイブ
目的障害・誤操作からの復元長期保管・法令遵守・記録保持
保管対象現在使用中の業務データ全般古くなったが残すべきデータ
更新頻度毎日〜週次ほぼなし
保管期間数週間〜数か月数年〜無期限
アクセス頻度高(障害時など)非常に低
混同に注意!

「全部RAIDに入ってるから安心」→ RAIDは可用性であって、バックアップの代わりにはならない

「古いデータを外付けHDDに残しておけばいい」→ それはバックアップではなく、不完全なアーカイブ

バックアップ設計の基本視点

RPO / RTO をまず定義する
用語定義
RPO(Recovery Point Objective)データをどこまで戻せればよいか(許容損失)
RTO(Recovery Time Objective)復旧にかかる最大時間

例:「RPO=1時間/RTO=4時間」であれば、1時間前までの状態に、4時間以内に戻せればOK。

3-2-1ルールに基づく設計

3つのコピーを
2種類の媒体に保存し
1つはオフサイトへ

バックアップ対象と方式
対象方式例
仮想マシンvSphere Data Protection、Veeam等
ファイルエージェント型、NASスナップショット
DBデータベースネイティブのDUMP+ログ
保存先としてのストレージ要件
項目推奨内容
書き込み速度フルバックアップに耐える帯域
保管容量世代管理を考慮して多めに確保
媒体冗長性RAID 6またはRAID Z3推奨
スナップショット高速リストア用途に有効
レプリケーションDRサイト/オフサイト連携に有効

アーカイブ設計の基本視点

データ価値 vs コストのバランス

「保存しておきたいがアクセス頻度は極低」→ 低コスト・長寿命が優先

ランダムI/Oや高速性は不要 → SATA/NL-SAS HDDやオブジェクトストレージが有力

アーカイブ方式の一例
方法特徴
ファイル単位の手動アーカイブ保守的だが運用負荷が大きい
ストレージベースの階層管理(HSM)よく使うデータは高速Tierへ、古いデータは低速Tierへ自動移動
オブジェクトストレージへの移行AWS S3/Wasabi/Ceph S3等。メタデータ検索も可能
WORM・法令対応も必要に応じて検討
  • WORM(Write Once Read Many):書き込み後の改変不可
  • 金融・医療・建設・研究などは数年〜10年以上の長期保持義務あり

製品選定と構成例

バックアップ用途
構成例製品候補例
仮想化基盤のバックアップ先Synology RS2423RP、NetApp FAS、Dell ME5
世代管理+レプリケーション構成HPE Alletra 5000、Veeam + Exos JBOD
クラウド転送型NetApp ONTAP SnapMirror + S3、Wasabi連携等
アーカイブ用途
構成例製品候補例
大容量ファイル保存(安価)Seagate Exos Xシリーズ(NL-SAS)
法令対応の長期保存NetApp SnapLock、FUJITSU Eternus HSM等
オブジェクトストレージ構成MinIO/Ceph/Dell ECS/Wasabi連携等

よくある誤解と対策

誤解対策例
RAIDがあればバックアップはいらないRAIDは可用性、バックアップは復元のため
世代管理は1世代あれば十分ランサムウェア対策には週単位・月単位も必要
クラウドに投げておけばOKダウンロードコストや保持期間、ガバナンスに注意
データを消さなければアーカイブになる「検索できる」「保持ルールに従っている」が必要

まとめ:ストレージ設計の“最後の1マイル”がバックアップとアーカイブ

バックアップとアーカイブは、「とりあえず置いておく」「万が一のため」ではなく、業務継続性と情報資産管理の設計要素です。

これまでのストレージ構成・プロトコル・RAID・製品選定に加えて、「守る・残す・戻す」仕組みまで考えてはじめて、インフラとして完成された設計になります。