前回はRAIDの基本と冗長構成について解説しましたが、実際のストレージシステムはRAIDだけでは成り立ちません。
サーバと同じように、ストレージ製品にも「CPU的な役割を果たすコントローラー」「物理的にデータを保存するディスク」「それらを収容する筐体構造」など、複数の構成要素があります。
本記事では、業務用ストレージ製品を構成する主要コンポーネントとその役割について、インフラ設計・提案の観点から解説します。
コントローラー:ストレージの頭脳
ストレージ装置の中で最も重要なのが、コントローラー(Controller)です。
サーバでいうところの「CPU+チップセット」に近い存在で、以下のような役割を担っています。
主な役割
- RAIDの制御(書き込み・読み出し、リビルド処理)
- キャッシュメモリ管理
- ホストとの通信制御(Fibre Channel / iSCSI / SASなど)
- スナップショット・レプリケーションなどのデータサービスの実行
- エラーログ記録、監視機能、フェイルオーバー制御
シングル vs デュアルコントローラー
種類 | 特徴 |
---|---|
シングルコントローラー | コスト重視。障害時は停止するリスクあり |
デュアルコントローラー | 高可用性構成。片系障害時も無停止継続可能(Active-ActiveやActive-Passive) |
大規模な仮想化基盤やミッションクリティカル環境では、デュアル構成が必須です。
ベンダー例
ベンダー | コントローラー名称例 |
---|---|
HPE | Storage Controller, RAID Smart Array |
Dell EMC | Storage Processor (SP) |
NetApp | HA Controller |
Lenovo | ThinkSystem RAID Controller |
Synology/QNAP | 内蔵SATA/SAS Controller |
ディスク種別:保存性能と寿命を左右する基盤
物理的にデータを保存するのはディスクです。
近年はHDDに加えてSSD、NVMeと多様化しており、用途に応じた選定が求められます。
主なディスク種別
種別 | 特徴 | 向いている用途 |
---|---|---|
SATA HDD | 安価・大容量・低速 | バックアップ、アーカイブ |
SAS HDD | 高耐久・中速 | 一般業務システム、ファイル共有 |
SSD(SATA) | 高速・高I/O | 仮想化環境、DBサーバ |
SSD(SAS) | 高信頼・高耐久 | OLTP系DB、重要アプリ |
NVMe SSD | 超高速(PCIe直結) | データ分析、VDI、高速DB処理 |
RI(Read Intensive) vs MU(Mixed Use)
エンタープライズSSDでは、読み込み特化(RI)か混合用途(MU)かで製品が分かれます。
タイプ | 特徴 | 用途 |
---|---|---|
RI(Read Intensive) | 読み取り主体、高コスパ | 仮想化・VDIの読み込み専用など |
MU(Mixed Use) | 読み書きバランス型 | 一般業務、トランザクション処理 |
RIタイプを書き込み用途に誤用すると、急速な劣化の原因になります。
3. 筐体構造:拡張性と保守性の設計基盤
ストレージ装置のハードウェア的な構造も重要です。
どのくらいディスクが搭載できるか、拡張は可能か、保守は容易かといった点は、長期運用を見据えるうえで見逃せません。
主な筐体構造と仕様
項目 | 説明 |
---|---|
フォームファクタ | 1U, 2U, 4Uなど。搭載可能ドライブ数に影響 |
エンクロージャ | ディスクを収容する拡張ユニット(SASやNVMeベース) |
フロントアクセス | 前面からディスク交換可能かどうか |
ホットスワップ | 電源オンのままディスク交換可能か |
冗長電源・FAN | 高可用性のためのハードウェア二重化 |
エンクロージャと拡張性
多くのストレージ製品では、拡張用のディスクエンクロージャ(EBOD)を追加することで容量増設が可能です。
- HPE MSA → D2700拡張エンクロージャ
- Dell PowerVault → MD1400, MD1420 など
拡張の可否や最大搭載数は、事前にベンダー仕様を確認することが重要です。
実務での設計例と選定のポイント
ここでは、実際に構成を考える上での要点をまとめます。
仮想化環境を想定したストレージ構成(例)
- 用途:VMware vSphere用のデータストア
- 要件:高IO性能、データ保護、スナップショット対応
- 構成案
- デュアルコントローラー(Active-Active)
- MUタイプのSSD(RAID 10構成)
- 2U筐体 + 拡張エンクロージャあり
- リモート管理・自動アラート対応
このように、要件から逆算してコントローラー/ディスク/筐体を組み合わせていくことが実務では重要です。
まとめ:ハード構成を理解すると選定の質が変わる
RAID構成だけでは見えにくいのが、コントローラーの制御能力やディスクの特性、筐体の制限と保守性です。
これらを理解していれば、要件に応じた最適なストレージ構成を検討できるようになります。
次回は、これらの構成をプロトコルレイヤーからどう接続し、どう見せるかという観点で、「iSCSI・Fibre Channel・SMB・NFS」といったアクセスプロトコルの違いについて解説していきます。