前回:【第5回】ネットワーク編:NIC構成と冗長性、帯域設計を“提案力”に変える
近年、AIやディープラーニング、4K映像処理といった分野の拡大により、「GPU搭載サーバーを提案したい」という要望が増えています。
しかし、CPUやメモリのように“とりあえず大きければ良い”という感覚でGPUを扱ってしまうと、物理要件・電源設計・冷却設計・ライセンス対応など、さまざまな問題に直面します。
この記事では、GPUの基礎知識から、実務での選定ポイント、プリセールスが見落としやすい提案時の注意点までを整理します。
GPUとは:CPUの代わりではなく“補助演算装置”
GPU(Graphics Processing Unit)は、元々はグラフィック描画用の演算装置として登場しましたが、現在では並列演算の得意なプロセッサとして、以下のような用途に使われています。
主な用途:
分野 | 説明 |
---|---|
AI学習/推論 | 深層学習モデルの学習やリアルタイム推論 |
映像処理 | 動画編集、エンコード、レンダリング |
CAD/CG制作 | 3Dモデリング、アニメーション制作 |
VDI | 仮想デスクトップへのGPU割当て(vGPU) |
GPUの主な分類と選定の考え方
GPUには複数のカテゴリがあり、性能以外にも目的・フォームファクタ・冷却方式などを加味して選定する必要があります。
NVIDIA製品の代表的な分類:
シリーズ | 用途 | 例 |
---|---|---|
Quadro(現:RTX Aシリーズ) | プロフェッショナル映像/CAD | RTX A4000、A6000 |
Tesla/Aシリーズ | データセンター向けAI学習・推論 | A100、L40S、H100 |
GeForce | ゲーミング・個人用途 | RTX 4090など(基本非推奨) |
GRID / vGPUライセンス用GPU | VDI向け仮想化対応 | A16、T4 など |
注意点:
- GeForceシリーズは商用サーバーでの保守対象外であり、メーカー保証を得られないことが多いため提案には不向きです。
- vGPUを使うにはライセンスと対応GPUが必須です。
GPU搭載時のサーバー設計で見落としがちなこと
GPUをサーバーに搭載する際は、「載るかどうか」だけではなく、以下の観点を確認する必要があります。
設計で確認すべきポイント:
項目 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
電源容量 | GPU 1枚あたり200〜700W程度消費 | PSUが冗長でも供給不足のケースあり |
スロット構成 | GPUはフルハイト・ダブル幅が主流 | 空きスロットと干渉注意 |
冷却設計 | ファン/エアフロー設計 | フロントtoリアのエアフロー必須 |
筐体サイズ | 1Uでは搭載困難なモデルも多い | 2U/4Uが主流 |
CPU側のサポート | PCIeレーン数/世代対応 | EPYCはPCIe多めで有利 |
例:NVIDIA A100は最大400W、H100では700W超えの構成もあり、冷却と電源のトータル設計が不可欠です。
提案・見積もり時のチェックポイント(プリセールス的視点)
GPU搭載サーバーを提案する際は、以下のポイントを押さえておくと信頼性が高まります。
ヒアリング観点:
- GPUの目的は何か?
- AI推論なのか、画像処理なのか、VDI仮想化用途なのか
- 学習と推論では必要GPUが異なる(例:学習=A100、推論=T4)
- GPU枚数は決まっているか?
- 枚数によって筐体選定・電源・冷却が変わる
- GPU仮想化(vGPU)を行うか?
- vGPUライセンスの有無、対応GPUの選定
- GPUを搭載できる構成かどうか?
- 選定機種に「GPUサポートモデル」があるか、拡張カードが必要か
- 将来的な拡張は?
- 将来GPU追加予定があれば、スロット・電源余力を確保
よくあるミスとそのリスク
- 保守非対応のGPU(GeForceなど)を提案 → 保守契約NG
- 筐体が1UでGPUが物理的に搭載不可
- 電源容量不足で起動せず
- PCIeスロット不足で2枚目のGPUが入らない
- vGPU用途なのに非対応GPUを選定 → ライセンス適用不可
GPU提案は高額な案件になりがちだからこそ、**「構成できなかった」「保守が通らなかった」**という失注リスクを避ける必要があります。
まとめ:GPU提案は“総合設計力”が問われる
GPUは、単なるスペックアップのための部品ではなく、サーバー構成全体を見通した設計力が求められるコンポーネントです。
プリセールスとしては、以下を明確に説明できることが重要です:
- なぜそのGPUを選んだのか?
- サーバーがそのGPUをきちんとサポートできる根拠は?
- 電源・冷却・保守の要件をどうクリアしているか?
この視点を持って提案できれば、GPUを扱うことは怖くありません。
次回は「電源ユニット編」です。
冗長化構成、電源容量の計算、構成ごとの電源ユニット選定の基本について解説します。