【第6回】GPU編:AI?映像処理?GPU搭載サーバー提案の基本と落とし穴

前回:【第5回】ネットワーク編:NIC構成と冗長性、帯域設計を“提案力”に変える

近年、AIやディープラーニング、4K映像処理といった分野の拡大により、「GPU搭載サーバーを提案したい」という要望が増えています。

しかし、CPUやメモリのように“とりあえず大きければ良い”という感覚でGPUを扱ってしまうと、物理要件・電源設計・冷却設計・ライセンス対応など、さまざまな問題に直面します。

この記事では、GPUの基礎知識から、実務での選定ポイント、プリセールスが見落としやすい提案時の注意点までを整理します。

GPUとは:CPUの代わりではなく“補助演算装置”

GPU(Graphics Processing Unit)は、元々はグラフィック描画用の演算装置として登場しましたが、現在では並列演算の得意なプロセッサとして、以下のような用途に使われています。

主な用途:

分野説明
AI学習/推論深層学習モデルの学習やリアルタイム推論
映像処理動画編集、エンコード、レンダリング
CAD/CG制作3Dモデリング、アニメーション制作
VDI仮想デスクトップへのGPU割当て(vGPU)

GPUの主な分類と選定の考え方

GPUには複数のカテゴリがあり、性能以外にも目的・フォームファクタ・冷却方式などを加味して選定する必要があります。

NVIDIA製品の代表的な分類:

シリーズ用途
Quadro(現:RTX Aシリーズ)プロフェッショナル映像/CADRTX A4000、A6000
Tesla/Aシリーズデータセンター向けAI学習・推論A100、L40S、H100
GeForceゲーミング・個人用途RTX 4090など(基本非推奨)
GRID / vGPUライセンス用GPUVDI向け仮想化対応A16、T4 など

注意点:

  • GeForceシリーズは商用サーバーでの保守対象外であり、メーカー保証を得られないことが多いため提案には不向きです。
  • vGPUを使うにはライセンスと対応GPUが必須です。

GPU搭載時のサーバー設計で見落としがちなこと

GPUをサーバーに搭載する際は、「載るかどうか」だけではなく、以下の観点を確認する必要があります。

設計で確認すべきポイント:

項目内容補足
電源容量GPU 1枚あたり200〜700W程度消費PSUが冗長でも供給不足のケースあり
スロット構成GPUはフルハイト・ダブル幅が主流空きスロットと干渉注意
冷却設計ファン/エアフロー設計フロントtoリアのエアフロー必須
筐体サイズ1Uでは搭載困難なモデルも多い2U/4Uが主流
CPU側のサポートPCIeレーン数/世代対応EPYCはPCIe多めで有利

例:NVIDIA A100は最大400W、H100では700W超えの構成もあり、冷却と電源のトータル設計が不可欠です。

提案・見積もり時のチェックポイント(プリセールス的視点)

GPU搭載サーバーを提案する際は、以下のポイントを押さえておくと信頼性が高まります。

ヒアリング観点:

  1. GPUの目的は何か?
    • AI推論なのか、画像処理なのか、VDI仮想化用途なのか
    • 学習と推論では必要GPUが異なる(例:学習=A100、推論=T4)
  2. GPU枚数は決まっているか?
    • 枚数によって筐体選定・電源・冷却が変わる
  3. GPU仮想化(vGPU)を行うか?
    • vGPUライセンスの有無、対応GPUの選定
  4. GPUを搭載できる構成かどうか?
    • 選定機種に「GPUサポートモデル」があるか、拡張カードが必要か
  5. 将来的な拡張は?
    • 将来GPU追加予定があれば、スロット・電源余力を確保

よくあるミスとそのリスク

  • 保守非対応のGPU(GeForceなど)を提案 → 保守契約NG
  • 筐体が1UでGPUが物理的に搭載不可
  • 電源容量不足で起動せず
  • PCIeスロット不足で2枚目のGPUが入らない
  • vGPU用途なのに非対応GPUを選定 → ライセンス適用不可

GPU提案は高額な案件になりがちだからこそ、**「構成できなかった」「保守が通らなかった」**という失注リスクを避ける必要があります。

まとめ:GPU提案は“総合設計力”が問われる

GPUは、単なるスペックアップのための部品ではなく、サーバー構成全体を見通した設計力が求められるコンポーネントです。

プリセールスとしては、以下を明確に説明できることが重要です:

  • なぜそのGPUを選んだのか?
  • サーバーがそのGPUをきちんとサポートできる根拠は?
  • 電源・冷却・保守の要件をどうクリアしているか?

この視点を持って提案できれば、GPUを扱うことは怖くありません。

次回は「電源ユニット編」です。

冗長化構成、電源容量の計算、構成ごとの電源ユニット選定の基本について解説します。